洪水「ディリューヴィアルメア」

もうどうにでもなぁれ

東方小説投稿サイト「東方創想話」 作品集232 概略

自分自身の二番煎じをしてみる事にしました。
最近演舞やってねえんだわ…すまねえ…。

 

さて。
まぁ皆様ご存知かと思われますが、東方創想話という東方小説の投稿サイトがありまして、今回はその232個目の作品集についての概略記事となります。
今回も備忘録用の概略と個人的に特に面白かった十作品のピックアップ紹介のお届けですね。
相も変わらず1kb=500文字換算です。今回の紹介作品は全体的に長め。御参考までに。

 

東方創想話 作品集232(2020 9/17-10/25)

 

概略

・初投稿の方は6名、そういう方が複数作投下されてると嬉しい
・作品集が埋まった時点での2000点超えは3作品、前回が異常過ぎたか
・作品集の埋没は三作品集連続で1ヶ月少々、但しちょっとずつ遅くなってる?

 

ピックアップ作品紹介(作者名敬称略)

  • 究極友達妖怪さとり 作者:nim サイズ:49.6kb

さとりとフランが楽しく遊戯に勤しむお話。

 

いやズルいでしょこれ。原作で接点ゼロのキャラをここまでちゃんと導入から勢い衰えず理路整然と幻覚に仕立て上げてるの好きすぎます。
それにフランちゃんの一人称で語られる地の文のユーモアの洪水がモーゼなど必要ないと言わんばかりに正気と狂気で板挟みされて最後までチョコたっぷり。負けじと食い下がるさとりもそれはとてもさとり妖怪で、結果として謎めいていて和やかで名状し難い亜空間が形成されるのですが、最後にはちゃんと可愛い姉妹愛で一件落着する見事な落とし処の腕前で御見逸れしましたと言わず他ありません。
パチュ髭危機一髪、パチュ棋、パヂュェンガといった幻覚の数々も目を引きますし、台詞が少ないながらもパチュリーの扱いが瞬時に分かるこの所業。
逆にここからどうやってあんな綺麗なオチまで持ってかれたのかと読み返しても分からない、そんなとても楽しく軽快な中編です。

 

  • 衣着ぬ 作者:灯眼 サイズ:13.1kb

八雲三代の遺伝の話。

 

衣着ぬというタイトルそのまま、強大な妖怪とその服の必要性について語られている訳ですが、この話のメインはなんと言ってもその書き口。
服を着ないという選択肢が大妖怪にとってさも当然であるかの様に、その婀娜で官能的な肢体の色気毒気で相手を魅了しようとする藍や紫の言い振りはこちらが間違っているのかとさえ思わせてくる程。
だからこそ今服を着ている理由の描写が現実味を帯びてきて納得させられるのですが、いやそうはならんやろ。眩しい理由の方は訊いてないんですけど?
それで今の彼女達は昔の己を恥じて服を身に着ける様になったけれども、では橙はどうかという後半で問い掛けてくる構成もただただ狡猾です。
予測出来たとしても笑わずにはいられないのがこの作品の魅力と言わざるを得ない、シュールギャグの極地を垣間見たかの様な短編でした。

 

  • 誰かが夢見た機械人形 作者:モブ サイズ:40.6kb

早苗とにとりの過ごしたひと夏の不思議な冒険譚。

 

夏真っ盛りの幻想郷の風景と、そこに似付かわしく無い外の世界のロボットの動きが絵本の様な口調で展開されていくこの地の文。
早苗やにとりの面白可笑しい行動や会話を主体に進行する物語ではあるのですが、やはりそこに流れ着いた幻想郷としては若干異質であるロボットの挙動もこの物語の真髄です。
初期はまるでギャグかと言わんがばかりの機能しか付いていなかったのに、幻想やヒトの温かさに触れて遂には八面六臂の活躍を見せるこの成長たるや。
キャラどころか物語全体も温かくて、だからこそこの物語はラストの展開まで駆け抜けていける素晴らしさがあったのだろうとも思えます。
タイトルの『誰かが夢見た機械人形』、その"誰か"が登場人物の全員に当て嵌ってしまえる様なこの構成も見事と言わざるを得ません。
夏と少女とロボットというアニメ映画一本で描けそうなテーマ性から、それに負けじと放たれたスペクタルが鮮明に表現されている中編です。

 

  • ゲテモノに紅茶を添えて 作者:石転 サイズ:19.4kb

仙人崩れのヒトデナシ共の日常風景のワンシーン。

 

華扇、芳香、屠自古の三者三様な人でない存在が織り成すお茶会の会話劇と言われたらそりゃ発狂します。オタクってのはそういうものですので…。
それはそうとやはり、種族の真面目な話や価値観の話を織り交ぜながらも楽しげに会話の弾んでいそうな調子が文字だけからでも伝わってくる、そんな跳ねるような和気藹々さが楽しいんですよ。
現状を曲がりなりにも満足していて、過去を悔やむ事無く次へ生きていこうとするその姿は活き活きとしています。死んでるけど、そういう種族ジョークも気兼ね無く飛び出せる関係性。
山盛りのクッキーを渡されて絶交だと口にしながらも、ちゃんと次回会う約束を取り付ける華扇の姿とか見ててほんわかします。
真面目話と痴話で緩急付けながらもスッキリとした感じの一作でした。

 

  • 友愛は薔薇の香りと共に 作者:海景優樹 サイズ:28.9kb

小鈴ちゃんと古明地姉妹の友愛の距離感の話。

 

鈴奈庵から一貫して危うさが描写され続けている小鈴ちゃんですが、その危うさがいつまでも健在であり続けそうだと感じさせられるそんな言動がとても良かったです。
古明地さとりという縁起にも危険性を盛り盛りで書かれたさとり妖怪に対して毅然と対応する様は育ちの良さを感じますが、どちらかと言えばいつまでも夢見る少女で居続けそうなそんな雰囲気。
にしても自分が嫌われる存在だと分かって敢えて恐怖を煽ったりさとり妖怪然とした行動を見せ付けるさとりの姿もまた、妹想いのみならず小鈴への気配りを感じさせる言動が多めで可愛いですね?
そして阿求。息をするようにあきゅすず。こいしの目の前でも小鈴と二人っきりでもいじらしい阿礼乙女要素盛りだくさんでタイトルにもある友愛の要素がニクいものです。
さとりから見た小鈴の心情変化の描写もまた面白くて、コロコロ変わる主点も楽しめる作品です。

 

  • さぁ、遠い所まで 作者:転箸 笑 サイズ:8.2kb

菫子が幻想郷を探そうとする話。

 

幻想郷に行けなくなった菫子というイフの話でありながら、この作品の菫子に悲壮感は無く寧ろ再起出来そうな強さがあるのがまず特徴的なポイントですよ。
そしてそこそこの田舎で幻想郷以外にも怪異が転がっているという事実に触れる。この菫子の視点を通した田舎への漫然と、でもくっきりとした描写に爽やかさすら覚えてしまいそうです。
なんと言うか短いながらもテンポの良い話の進み具合が次々と移ろい行く取り留めの無い場面の連続を際立てている感じがして、オチも思わず失笑してしまう程。
この作品の菫子ならきっと上手くやって行けるのだろうな、とそう思わせてくれる短編でした。

 

  • 一人で走れる 作者:いびでろ サイズ:25.2kb

魔理沙が自転車に乗ろうとする奮起の物語。

 

にとりの開発した自転車に悪戦苦闘する魔理沙の汗臭い努力が、箒に乗れる様になるまでと重なって描写されていくこの構成がまず惹かれます。
見返してやる、必ず乗れるようになってやるという決意さえ滲み出てくる地の文の感情の乗りようこの上無く。挫折や再起も含めて、これは紛れもなく王道の成長譚だと言えるでしょう。
そしてこの話のにとりの性格たるや、守銭奴でガメつくて、それでも最後まで読んでいると何故か憎めないと思わされてしまうのがまた良いものです。
『世界のことをまた一つ好きになれた喜びに比べたら、転んだ程度の痛みなんて!』という魔理沙の勝ち誇った気持ち等、ストーリーが後半に掛けて一気に結実していくのが本当に面白い。
本当に自転車に乗ったとでも言いたげに、駆ける様な爽快感で後が満たされる、そんな一作です。

 

  • 小傘がぬえに矢尻を作ってあげる話 作者:くろはすみ サイズ:25.7kb

タイトルそのまんまの話。

 

とにかく小傘とぬえの互いへの感情が良くて、本人達の思っている以上に深い友人関係になっていそうなのが地の文の裏から犇々と感じられる書き方が良い作品です。
ぬえは口に出さずとも小傘への信頼感情が高いし、小傘に至ってはぬえの事を掛け替えの無い友人だと思っているし何よりその自負が強すぎる。三重の意味で蹈鞴を踏んでますよこれ。
それに何と言っても小傘の性格が良い。人里の中の話だから当然モブ市民の方々も出てくるのですが、彼らから小傘への人柄の良さもさながら小傘側も彼らに対して礼儀正しく愛着があって。
『あの子と仲良くするには些か人間過ぎたのかもしれない』とぬえに対して小傘が顧みるシーンはまさにそうなのです。人間妖怪どっちつかず、それこそ付喪神然とした感じが文脈に大量に潜んでいる。
矢尻を作るという鍛冶業を通して妖怪と妖怪と人の距離感が匠に表現されている中編です。

 

  • さよなら幻想少女たち 作者:モブ サイズ:19.3kb

幻想郷に行けなくなって梲の上がらない生活を送り続ける菫子の話。

 

今作品集の中で菫子の面白い話を挙げろと言われれば、前述で紹介した『さぁ、遠い所まで』と比肩して、されど方向性はある意味真逆な感じの作品です。
幻想郷に行けなくなってから数年経って社会人となった菫子が、夢を捨てきれずにずっと燻って燻って現の世界にも地に足付けられずに転げ落ちていく前半の流れ。その悲痛の描き方がリアルで繊細で、ただただ恐ろしい。それでも、その望んではいなかった事実に打ちのめされながらも現実で生きていこうと転機を経て。『幸せの後ろ姿は暗い』と言っていた過去を通り越して、一先ずのケリは付けられたのだと分かる後半の光明は愛おしいものでした。
実際この作品への感想として当時感想欄に投げ込んだ物以上の物は書けません。自分はこの作品に対し、凋叶棕の東方Vocalアレンジ曲である『ハロー、マイフレンド。』と『くすぶるなにか』を思い浮かべて感傷に浸り続ける事しか出来ないのです。
でも本当に、空は虚ろで過去の居場所で幻想に近い場所で、その空間を共有出来ていた友人の居なくなった今ではその広大さもただただ無情。ただ確かにその心の空白は他で埋める事が出来たのだと読後に確実にそう思える、これはそんな物語でした。
因みにこの作品の作者さん、前述の『誰かが夢見た機械人形』と同じ方です。1ヶ月の間にこれ程までに面白い作品を二作品連続で投稿する手腕にただただ脱帽。

 

  • 脱:カフェから始まる秘封倶楽部 作者:Actadust サイズ:15.2kb

秘封倶楽部の二人が活動を見つめ直す話。

 

定石を踏んだかの様に喫茶店から始まって、そこから蓮メリでギャグで飯テロで蓮メリちゅっちゅが矢継ぎ早に繰り出される構成にはただただ疾走感満載としか言えません。
特に好きなのはラーメン屋でのシーン。秘封倶楽部という二人で一つの物語でありながら、主役をラーメンに持って行かれたとしか表現のしようの無い完璧な飯テロはブッ飛んでてとても良い。
ラーメンを啜る時は他の事なんか考えちゃいられないと目の前のそれに集中し始める蓮子は蓮メリちゅっちゅと言うよりラーメンちゅっちゅですからね。だからこそメリーの論調も面白く響いてしまう不思議な魅力すらありましょう。
最後に紫が出てくるという点に毎回個人的に腹を据えかねておきながら、それでも面白かったと唸らざるを得ない、そんな一作です。

 


他にも紹介しきれなかった珠玉の作品もまだまだありますので是非。
ぶっちゃけ二回目にしてマジで同一作者の作品を複数紹介しない縛りを破る事になるとは思ってませんでした。本当に悩みに悩んだ……。

 

あと、こちらは完全な私信となりますが先日の紅楼夢及び秋季例大祭はありがとうございました。
予想以上の方々に新刊をお手に取って戴いて感謝感激の無慈悲で過激な舞です。
差し入れ下さった方にも改めましてこの場で感謝を。
次回は春季例大祭にて霊廟組の短編漫画を書く予定ですので、また宜しければ。

新刊購入した人間判明次第全員鍵リストにブチ込んでるからな後16人覚悟しろよ