洪水「ディリューヴィアルメア」

もうどうにでもなぁれ

東方小説投稿サイト「東方創想話」 作品集233 概略

新年明けましておめでとうございます、今年も宜しくお願い致します。


時期が被ったので所謂記事初めというのを創想話関連の話題でやろうかと思いまして。
書初めに準えたと言ってもまぁこの分量を1日で書くのは到底不可能なのですがそれはそれ。
なんなら吉書初めは1月2日に行うのが通例です。こんな元旦なんかにお出しする物ではない。

 

さて毎度恒例の前置き。
この記事を読んでいる時点でご存知でない方は居ないという前提の上で書いておりますが、まぁ一応書いておくとこの世には東方創想話という東方小説の投稿サイトが存続しておりまして、今回はその233個目の作品集についての概略記事となります。
性懲りも無く備忘録用の概略と個人的に特に面白かった十作品のピックアップ紹介のお届けですね。
相も変わらず1kb=500文字換算です。今回の紹介作品には100kb超えも存在しますがどうかご承知を。

 

東方創想話 作品集233(2020 10/26-12/27)

 

概略
・初投稿の方は5名、ここから定着していくのかどうか期待
・作品集が埋まった時点での2000点超えは無し、少し残念
・作品集の埋没はここにきて2ヶ月に、寧ろこれが普通なのかもしれない
・1人で27作品投稿してる人、本当に人なのか?

 

ピックアップ作品紹介(作者名敬称略)

  • 公道を水のように、廉直を川のように 作者:ドクター・ヴィオラ サイズ:129.8kb

女苑の葛藤と欲望と悪徳に手が差し伸べられる話。


この作品は妖怪にとって特に難儀な種族としてのサガについて焦点を当てているのですが、命蓮寺の戒律の下でそれらを上手く抑えんとする妖怪達とそれでも抑えられない女苑の対比が本当に凄まじい。
一輪も星も村紗もサガを吐露して救おうとするのに、それでも尚女苑の中で燻る悪徳が止まらずに突入する中盤の山場は居た堪れず。
疫病神であるならば悪行すらも失敗してしまうのはそこまで来た読者の視点ではとうに分かりきっているのに、ただ眺めて読み進める事しか出来ないぐらいに没入感を湛えた地の文もまた魅力の一つです。
そして何よりも語らねばならないのは悪徳を遍く照らさんとばかりの聖の道徳っぷり。この敵わないと一瞬で分からされる感触こそがこの作品での最大の強さだと自分は思っているのですが、それも含めて終盤に掛ける猛烈なカタルシス及び紫苑の手の差し伸べ方も一層映えていて、ただただ読後感が半端では無いと思い知らされるんですよ。
長さに見合った感情移入の強烈さと畳み掛けて何度も押し寄せるような女苑の苦しみの描写がニクい、そんな長編です。

 

  • 複製丸 作者:くろはすみ サイズ:5.3kb

にとりと魔理沙の実験の話。


やけに倫理観の軽さを思わせてくるにとりとどこかお調子者で軽薄な魔理沙のコンビがまず良いですよね。にとまりは世界を救うってフォロワーも言ってました。
ちょっとした日常風景を挟んでからとは言え、新しい発明品が出来てさあ実験という流れは少しばかし往年の二次創作を思い起こさせるようで。
それでいてカップリングみは無くて、魔理沙の口から淡々と語られる状況やちょっと可愛らしさも感じる地の文に愛おしさ満載の動作を見せる猫のそれはただただ良いもの。所謂眼福という奴です。
短編でありながらも序破急が心地良く痛烈な一作です。
まぁそれで終わっていればここで紹介しないと言うか、オチの展開を知ってから読み返すと色んなどころか殆んどの描写がオチを匂わせて収斂させてくるんですよ。そんなん好きにならん訳が無いでしょうに!

  • 酒一杯 作者:封筒落とした サイズ:11.5kb

とある男による酒との付き合い方についての一人語り。


頽廃的な語り口から放たれる酒クズの権化みたいな回顧が本当に上手すぎて、本職かと疑いたくなるぐらいにズルズルと沼に引き込まれる言い回しが目を引くんですよ。
もう迎え酒のくだりとか凄いですよ、酒に飲まされてるのかと言わんがばかりでそれでいて当の語っている張本人は何の悪びれも無く酒を臓腑に流し込んでいるのが見え見えで読んでるこちらの気分も昂ぶってしまいますもの。
そして酒の力で万能感を得て愚行を犯して痛い目を見たという過去譚を終わらせてからのソレ。牛乳で一旦のオチが付いた時点で凄いのにその後すぐ羹に懲りて膾を吹けばまだ良い方だったと思い知らされるのは完璧としか。
あと初の美宵ちゃんタグで存在を匂わせてからの、ほぼ聞き役に徹させて物語が一人芝居かの如く進行していく様も流石ですよね。『あー悪いね美宵ちゃん、おっとっと、へへへ……』じゃあないんですよ。だいすき。
酒は呑んでも呑まれるな、それを主人公を反面教師にするかの如く描いた作品でした。

 

わかかげばんきのちょっと可笑しな日常風景。


文字の書かれたそれを掲げてわかさぎ姫と影狼の前に姿を表す蛮奇って構図だけでも面白いのに、わかさぎ姫側の思考の畳み掛けも影狼側の思考の纏まらなさもそれぞれ如何にもなユーモアセンスで彩られていてとても良い。
声を届けるのが電話の意義なのに聞こえるのは相手の声ではなく蛮奇の声という事実も、オチとして完成された構図でありながらもそこから更に可愛らしいわかかげばんきのそれぞれが描かれていればもう笑顔しか浮かびません。
だからこそ終始一貫して読んでいる側がどぎまぎニヤニヤさせられる。もどかしくって愛しくって蛮奇のその思考回路の一端を理解してしまえるぐらいにわかさぎ姫と影狼に早く会って自分の声で話せと言いたくなるものです。
友情関係という一つのテーマを馴れ初め云々から紡ぎ上げて、かつ全員の魅力を損なう事無く三者三様の妖怪模様を見せ付けてくるのが弱っちくとも健気に生きていこうとする彼女たちの姿を克明に映し出していると言っても差し支え無いのでしょう。
ボケとツッコミと緩衝材が二転三転しては笑わせてくれる、そんな中編です。

 

  • 夕景に酔わされて 作者:めそふ サイズ:5.6kb

吸血鬼の見る夕暮れの話。


一貫して瞳を通した光景とその色彩を中心に、入念に言葉選びをしたであろう地の文の紡ぎ方が恐ろしく、強烈なまでの雰囲気を漂わせてくるのが特筆点と言っても過言では無いでしょう。
窓越しに見えるその薄暮れ模様、窓面から漏れ出て射し込む天敵たる陽光、外とは窓と壁で隔てられた館の内部。その三点の扱い方も丁寧で、独特の柔らかささえ生み出しているのではないかとも思わされます。
そもそもにして夕方は吸血鬼にとっては寝起きの時間帯で、今から夜が始まるという絶好のタイミングで、だからこそその期待と儚さが丁寧に織り交ぜられてるのもとても良い読み心地。
会話のどこか含みがあるのも相俟って、姉妹含めた紅色がとても鮮やかに魅せられた短編でした。
だからこそ放たれるそのオチがもう破壊力満載と言うか、でも実質朝の着替えだから寝惚けた状態でやればそうなるかもと納得出来てしまうと言うか…

  • 薄氷に頬染め、雪渓に血抜き 作者:岩檜葉 サイズ:25.1kb

山姥の歩く妖怪の山の雪景色の厳しさを描いた話。


冬場の山というモノクロにしかなり得ない環境でありながらも、そこで確かに存在している多種多様な自然が僅かな色彩を齎してくれる様が綺麗に描かれて、筆舌し難い美しさを生み出しているのが実に良い。
水の描写が特に綺麗なんですよ。寒さを湛えたまま勢いよく放たれ轟くその瀑布の数々が視覚面でも聴覚の面でもネムノの感覚及び地の文にありありと映し出されているというこの大自然そのもの。
あと途中で差される万葉集の詩の一節もかなり好きですね。決して返ってくる事の無い山姥の愛、引き換えに熱を奪う雪女の愛、その二つがドロドロに混ざってどちらも責める事など出来やしないと分かってしまえるこの感覚。序盤で示されたネムノとレティの間にあったぎこちなさに対して一つの解答を示されるというのは、成程やり切れない何かしか残らない。
季節以上に色々な感情を行間から匂わせてなお強さが前面にある一作です。

 

  • 風よ、風よ 作者:モブ サイズ:6.2kb

何かを告げてくれる風と早苗の思い出の話。


風を主軸に、その音の強さと吹いている時間の流れを通して早苗さんの回顧を引き出していく構成の展開が非常に詩的で、これは四篇連立しているからこその強さとでも言いましょうか。
朝昼夕夜のそれぞれで今過去未来全てに思いを馳せるワンセットの流れが強烈で、人として神としての二面性があって、外の世界の思い出の上で幻想郷での今が成り立っていて、風との並ならぬ関係性もあって、そんな早苗さんだからこその文脈が良いの何の。
行間を読ませるかのように淡々と綴られる光景に時折比喩的な表現が顔を覗かせて、風という存在について一際少女み溢れる書き方がされているのも健気で美しい。
早苗さんが幻想郷に馴染んで、確かに生活を送っている姿がありありと浮かぶような短編でした。

 

  • 二十七日目のお昼過ぎ 作者:奈伎良柳 サイズ:10.2kb

小鈴が阿求に会おうとする話。


鈴奈庵で見せる怪異に対するその危うさを抜きにして、ただただ小鈴ちゃんが阿求との関係性について悩んで考えて一歩先に進もうとする様を描いた作品という点がまず強烈です。
決して子供ではないけれど主人公勢と比べれば幼さが残る小鈴ちゃんに、年齢とは裏腹に里の重役として気高に振舞う阿求の差は大きいようで、それでもなお友達として居続けているという状況。
それが一ヶ月近く会わない日が続いたら、その事実を考えざるを得ないという時に小鈴ちゃんが見せる言動が絶妙で、感情を説明し過ぎず、かと言って情報量を極端に削った訳でも無く、読み手側に適切に理解させてくるこの地の文の取り方は天才的でしょう。
そして疑念が解決するって時に阿求の中の年相応の少女性がはたと見える構図も効果覿面、またいつもの二人の光景が幕を開けるのだと思わされてしまう所も良いとしか称せません。
読めばタイトルのその意味が理解出来てしまって思わず唸ってしまう、二人の間柄の取り方が完璧なそんな一作です。

 

  • 恋する乙女に祝福を! 作者:海景優樹 サイズ:26.7kb

霊夢魔理沙とこいしちゃんの三角関係が織り成す年末の光景。


ともかく幻想少女のその少女的な可愛らしさが全面に押し出された展開が微笑ましいのです。前半の霊夢パートも後半のこいしちゃんパートもそれぞれ艱苦する姿と羽目を外す姿があって可愛いのなんの。
霊夢とて長年の親友として魔理沙の相棒枠は譲りたくないし、こいしちゃんとて瞳を緩ませてくれる過程に居てくれた魔理沙の事を大切にしたい、だからこそ魔理沙を巡って意固地になってしまう二人が居て。
それに比べて魔理沙と来たらやや傍若無人で、それでいてやっぱり一番の相棒は外せないけど僅差の二番枠ならいつでもウェルカムみたいな天然ジゴロで、恋の魔法と埋火でつい読んでる最中に笑顔にさせられるのも良いですね。
あと殆んどが会話劇で進行しているにも関わらず、口調から誰がどんな表情をしているのかすぐ分かってしまえるその端的さも上記のそれらを一層増幅させていたのかもとも思わされます。
こいしちゃんの開眼に至るまでの文脈がもうちょっと欲しかった気もすれど、それでも幻想少女の賑やかさがふんだんに盛り込まれた一作でした。

 

  • キョンシー・オブ・ザ・デッド 作者:こだい サイズ:27.1kb

アホみたいな小傘ちゃんが阿保な話。


これですね、この話を語る上で小傘ちゃんが阿保である以上の話が出来ないぐらいにもうズルくて面白いんですよ。時折ボケる地の文ですら霞む程の愚行の連発が最高です。
初手で早苗さんに対して穿突してキレられた時に何もそこまで言わなくて良いじゃないかと微塵にも思ってしまった事は当然反省しなければならないのですが、にしても阿保。
世の中の小傘ちゃん好きに対してここまで言ってしまった事を謝罪しないといけないかもしれないけれども、それでも尚も持ち得る最大の表現で冷罵して卑下して讒謗しても到底形容し切れないぐらいには阿保ですよこれ。大好き。
ついでにタイトルにもなってる殭屍のギャグ的な扱い方も神掛かっていると言うか、低予算B級ホラー映画じゃまずお目に出来なさそうな二点三転する構成を用いた上で、かつ地の文の狂言回し込みで思いっきりブン殴ってくる。
実話タグの意味は分かんないけれども、それでもどう足掻いても笑わずにはいられない、そんなシュールギャグの境地に至ってしまった作品です。

 


他にも爆速ギャグで面白い作品ですとエロ本、フェムト、RIKISIも挙げられますが、ちょっと今回は省いた形で…。
紹介しきれなかった珠玉がまだまだ存在しておりますので、この機会に一個人の感想に囚われずに色々な作品を探してみるのも是非。
玉石混淆とはよく言ったもの


あとなんか自分も投稿していたらしいのでお時間があれば読んで戴ければ何より。
ついでに昨年の紅楼夢/秋例大祭の新刊をBoothで販売し出しましたので、そちらももし興味がございましたら宜しくお願い致します。