洪水「ディリューヴィアルメア」

もうどうにでもなぁれ

東方小説投稿サイト「東方創想話」 作品集234 概略

最早恒例行事と化していて自分の中でも驚いている節があります。
最新記事五枠の欄の上四つが既にそそわ関連の記事で埋まっているのが逆に不安ですね…。
一応幻想人形演舞がメインのブログだったハズなのですが。

 

もう言わなくても差し支え無いかと思われますが近傍には東方創想話という東方小説の投稿サイトがありまして、今回はその234個目の作品集についての概略記事となります。
概略成分が薄くなり特に面白かった十作品のピックアップ紹介の列挙がメインとなりつつある今日この頃ですが、いつも通りの形式でいつも通り1kb=500文字換算のまま話を進めていきたいと思いますので何卒お付き合い下さい。
ラスト三作のkb数がどれも一桁台なので竜頭蛇尾感は正直ある


東方創想話 作品集234(2020 12/27-2021 03/02)


概略
・初投稿の方は12名、その方々の作品数の合計が21作品なのでかなり多い部類かと
・一人で20作品投稿されている方の存在も踏まえると今回はそういう作品集だったのかも?
・2000点超え作品はゼロでしたが3000点超えが1作品、おめでとうございます
・作品集の埋没は2ヶ月近く、2月は28日しか無いのでまあまあという感じ

 

ピックアップ作品紹介(作者名敬称略)

  • おてんとさまが見てる 作者:くろはすみ サイズ:11.8kb

余りにも孤独に慣れすぎた盲の手を引く暗闇の話。

この話はモブ主人公の持ち味が色濃いのでまずそこから触れるのですが、盲目でありつつも妙に宗教的と言うか弱味を見せずどうあろうとも生きていける術を知ってしまっていたそのどうしようもなさがキャラ造形として秀でていて。
最終的に"おてんとさま"そのものは自己完結の手段でしか無かったと知ってしまうのだけれど、それを知覚する時には自らの身の内や弱味をルーミアに完全に曝け出しており、自己完結から脱却出来ていたというストーリーを一層引き立てていたと思います。
この誰かに曝け出すという行為が即身仏のように自らを削り研ぎ澄ましていくのと同義であるからこそ、最初の出会いから彼女の地の文における世界が急速に拓けていく書き口が悲観的な面を感じさせずにいたのでしょうか。"おてんとさま"に文字通り照らされていない彼女が最終的に天道様とは追聯する闇に抱かれてフェードアウトしていくのも、聞き手がルーミアであった意味を確かに感じずには居られない巧手さを存在させていました。
モブ主観でありながらも幻想郷の世界観に則って、かつルーミアの扱いを舞台装置に留めずしっかりと描ききった異色の作品です。

 

  • 一番、隣に相応しい 作者:奈伎良柳 サイズ:50.2kb

磨弓の成長と、それでも越えられない壁が存在するのかという話。

この話で主軸にあったのは磨弓が『もしも、私より強い埴輪兵士が出来たら、私はどうなるのだろう』と悩む姿で、畜生界から人間界に降りた際に描かれる修練と成長の話とは究極的に対を成す物でした。
であるからして、自らよりも強い埴輪が一から創られる事は無いという前提が明かされてしまえば後は本人の成長次第という風に話が進み、加えてその進歩の具合を妖夢との戦績で示す事で端的に表現していたのは実に巧妙な物。
頬を撫でる、血や涙を流す、剣を振り抜くといった軽微な動作に登場人物の感情を込めつつ物語を動かしていく地の文の柔らかさとスピードの付け方もまた面白く読めたものです。
後は妖夢の話の絡ませ方も良かったなとも。鬼形獣で切り結んだ同士であり、技を互いに研鑽出来る武芸者であり、同じ悩みを共有できる立ち位置でもあるとして話を更に盛り立たせていたのでしょう。
主従関係という枠の中で丁寧にキャラを回して着地点を見出されたのだな、とも思わされる中編でした。

 

  • 忘却の技法 作者:そらみだれ サイズ:18.8kb

人生経験の差から来る妹紅の歴史観の話。

会話主体で構成された物語の中で確かに妹紅の人生経験や苦渋が裏に滲みつつも、それらの要素に話が引っ張られる事無く、寺子屋の少女が主人公というポイントを崩さずにすっきりと読める丁寧さが存在しているのがまず良いものです。
妹紅のその一挙一動を魅力的に描く事によって、読者にも作中の少女と同じように興味を惹かせて両者の心情を軽くリンクさせてくれるこの書き方があってこそ、柔らかさを以てこの話の着地点にも付いていける感触とでも言うのでしょうか。
読者は当然ながら妹紅のその推移を儚月抄等の原作で知っていますが、それを知る余地の無いモブ主人公ならではの触れ込み方を上手く書いているという点もやはり好きなものですね。
後、少女の前では詮索を誤魔化すのが下手だった妹紅がラストの慧音との会話シーンでは寧ろ相手を弄る側になっているのも、知り合ってからの歴史の長さの差みたいに思えて良い塩梅でした。
甘酸っぱくてニヤけてしまいたくなる、そんな恋路と羨望の入り乱れた作品です。

 

  • 正邪はお家に帰りたない 作者:石転 サイズ:26.9kb

正邪の畜生界出奔騒動の瑣末を垣間見る話。

鬼人正邪という天邪鬼のキャラクターを日記という媒体でギャグ色濃く真面目に描きつつ、それを覗き見る鬼畜生共のツッコミが適宜入るという作劇構成自体がまず面白いんですよ。
それでいて四者四様でキャラが十分に立っているが故に読み疲れせず次の頁へ次の場面へと読み進められ、終いには大団円で終わってくれるのですからそれはもう楽しかったと言い表す他無いのです。
個人的にこの話で特に上手いなと思ったのは鬼傑組という組織を描くにあたってお出しされたモブ幹部の扱いで、決して原作キャラの役割を食う事無くキャラが立っていない訳でも無く、絶妙に美味しい所を持って行く事によってラストで鍋を囲むその一文が『五人』であって良かったと思わせてくれる所ですね。暖かさによって世界観が維持され続ける点に読者が安心出来るのは大きい。
畜生界でも正邪は正邪だと頷かせてくれるような、そんな一作でした。
あと『テメェの都合が良すぎる妄想の人格で語るクソ』、アレは自分も嫌いなんでよく分かる。

  • 鬼のいぬ間に 作者:転箸 笑 サイズ:10.8kb

人の営みの中で素性を隠したい鬼の話。

最初は村から見た異邦人という形で話が進み、そして華扇視点に物語が移行した所で人外から見たヒト社会が描かれるこの対比も中々ですが、それ以上に昔の鬼としての性質が色濃く残る華扇がヒト社会の中に身を溶け込まそうとして尚も出来ないという部分を、悲壮感も一切抱かせずに鬼の剛直さと妖しさで地の文を彩る事で演出しているのがなんとも読み応えがあったもので。
『掃除もせず、服に少しだけ付いていた血をおとすと、家を出た。ザクロはもういらない。』の一文とか特にそうですね。改行を駆使して視点誘導をする事で人外の不気味さを一層深く湛えさせているのが短編らしくて良かったり。
だからこそ、人の間に混じれず柘榴に手を出し終いには本物の人に手を出してしまった華扇が、ラストにおいて柿の葉寿司という人の食べ物の為にその地にもう一度戻って来ていた様子に不思議な物を感じずにはいられないのかも。
昔話としては少し不思議で不気味で、だからこそ出ていた味が表現に出ていた、そんな短編です。

 

  • 祈りと奇跡とアングレカム 作者:夏後冬前 サイズ:36.2kb

秘封倶楽部が神と奇跡の実在性に触れる話。

こういう科学世紀ならではのアプローチから世界構造への深刻なダメージに至るストーリーの、その根幹が秘封倶楽部のフィールドワークではなく人の技術による物という導入が凄く好きです。
それでいて作品内での科学世紀の設定や物理学的なニュアンスを苦も無く読ませてくれる構造のお陰で、より一層起承転結の起と承の部分が読み取り易くかつ魅力を底上げしているのも楽しかったり。
そしてアングレカムを名乗る不審者との対峙然りそこからの怒涛の展開然り、汗が背筋をなぞりつつも切実なまでに神というシステムへ得体の知れぬ感情を抱かせてくる急転直下こそが真骨頂。
解明の出来やしない無い未知に対し慌て戸惑いつつも最終的に意を決し、毅然とした態度で応じられるようになるまでのメリーのプロセスの演出の仕方には、SFというジャンルを差し引いても流石としか言い表せませんでした。
あとこれは本筋とは直接関係しないのですが、蓮子とメリーの会話から圧縮された知識の数々がそこはかとなく顔を覗かせているのが知的なニュアンスを感じさせていて凄く読んでて面白かったですね。
読後に爽快感が味わえる作品という訳では無かったにせよ、それでも十二分に楽しめる中編でした。

 

  • 『水底のラフィア』より 作者:真坂野まさか サイズ:63.4kb

日記を手に入れたわかさぎ姫がそれを読もうと奮起し心を躍らせる物語。

最初に言ってしまえば、この作品はこの作品集の中ではかなりの一線を画す存在であるとも言えます。
その確かな技量に裏打ちされたであろう優しい地の文の書き方もそうなのですが、一番はやはり"読書"という読者にとって特に感情移入がし易いテーマを主軸に置いているという点に集約されるのでしょう。
東方創想話というサイトの特性上こういった作品を読む人の殆んどが読書好きであるという前提こそありますが、主人公に据えられたわかさぎ姫という読書初心者が紡ぐ心情描写の数々に対して、その読者視点を通す事によってストーリーをより深く味わえかつ懐古にも浸らせるというのは中々出来た事では無く、語彙を投げ打ってただただ素晴らしいと表現する事しか出来ない程の物です。
これこそが没入であり初心であり、であれば読者は自ずと中盤のパチュリーと同じような岐路にも立たされる。『何かを好きでなくなることは恐ろしい』なら自分は実際初心を忘れていないか、読書愛とは何か、等々。
だからこそその後に来る菫子との問答や『水底のラフィア』探しの終着点がより刺さるのは当然とも言えましたね。本当に優しい書き口で読者がふと抱いてしまった蟠りを氷解させてくれては、この物語を好きにならない訳にはいかないのですから。
実際語りたい事が多すぎてストーリー本編に触れた紹介を余り出来ていないのですが、良かった点を探せば枚挙に暇が無いというぐらいにオススメできる中編です。

 

  • 部屋に降る魚 作者:ふさびし サイズ:4.1kb

蓮子の見た一朝限りのワンルームの幻想風景。

この作品の上手い点として、部屋の中の水が魚になってしまうという異常現象を視覚的に表現し続ける事によって臨場感を生んでいる事が挙げられます。
秘封倶楽部を形作る代名詞とも言える瞳を主体に、短いながらも瞼に焼き付けてくるかのような鮮烈な出来事を鮮明に切り取って、幻想的もしくはSFチックな展開に収められている。
決して大きな展開があるとは言えないのですが、かと言ってストーリーラインの魅力が足りない訳でも無いというのが十全に伝わって来るようで、秘封倶楽部を短編の題材に扱う上での難儀な所が解消されていたのかもしれません。
一個の出来事を切り取った形の物語だからこそ演出できる、難しい事も考えずに読めるような気軽さが心地良い短編でした。

 

  • 氷室 作者:マジカル☆さくやちゃんスター(左) サイズ:6.2kb

氷を売る男と氷を作るチルノの二人三脚の話。

忘れられたモノが行き着く場所で尚廃れゆく物の存在や幻想郷での冷凍事情を引っ括めて、それでも氷売りという外ではとっくに寂れた職業が息衝いているのを確かに感じられるのが実に良いもの。
にとりの開発した電気氷室に主人公の家族構成が重なって氷売りという職業自体がもう長くは続かないと序盤は匂わされるのですが、相方として出てきたチルノの無邪気な快活さが氷売りの目線を介して語られる事によって、悪い終わり方にはならないだろうという予感に手応えを与えてくれるのもモブ主人公であるという点の為せる技でした。
郷愁や技術の進歩に置いてけぼりにされそうになっても、そこに居て生計を立てている幻想郷住民が居るのだと、世界観の下地を再確認させてくれる短編です。

 

  • 霊刀「超硬」 作者:灯眼 サイズ:4.3kb

蛙の親は蛙という話。

最後の『まったく、ふたりそろって剣馬鹿ね』というセリフに象徴されるように、妖夢と妖忌の似通った部分を行動のみで示唆するのが上手すぎるんですよ。
最初は真面目な地の文で霊刀の業物具合と妖夢の流され易さを直線的に描き、妖忌からの手紙の文体も流々とした生真面目さを描きと、ともかく文章に一切の曇り無く進行するのはやはりこの作者の方の持ち味なのでしょうかと勘繰らずにはいられません。
それでいて物語として見ればちゃんとした形に収まっているのですから、妖忌の堅物な間違いがより一層強調されてしまうのでしょう。だからこそこの作品が良いと言えるのですけれども。
バレンタインという時期ネタを巧みに昇華させた、面白おかしい短編でした。

 


紹介しきれなかった作品の中にも珠玉の物はまだございますので、まだまだ探してみては如何でしょう?
今回は特に得点数上位の作品からの抜けが多かったという事実も存在しているので…。

 

あと完全な私信とはなりますが、twitterでも申しております通り今月21日開催の春例大祭ではす03aのスペースにて出せたら薄めの漫画を出す予定です。
また、す10a『はろうぜっぷ』様の東方神霊廟ダークサイド合同にて軽い漫画と、つ14a『イデアタウン在住』様の再録集にてよくわかんないものを寄稿させて戴いておりますので、興味がございましたらそちらの方もどうぞ宜しくお願い致します。

ぶっちゃけ新刊を出せるかはもう本当に絶望的です