洪水「ディリューヴィアルメア」

もうどうにでもなぁれ

東方小説投稿サイト「東方創想話」 作品集235 感想後編

前編を投稿した時に1ヶ月以上掛かるかもしれないな、と思っていたのですがこうして3週間で投稿する事が出来て良かったのなんの。とりわけ忙しい時期も過ぎ去って、束の間の休息を味わいながら創想話に入り浸れる感慨を身に染みて感じております。
現在最新となっている作品集236からはまた概略のスタイルに戻していきたいと思いますので、宜しければ今後もお付き合いくださいな。

 

ピックアップ作品紹介(作者名敬称略)

  • 舟幽霊の復讐号 作者:ドクター・ヴィオラ サイズ:32.9kb

感想を書き過ぎて結局向こうにも投稿しちゃうの、なんだかんだ言って自分で設けた言い訳すらも破っている感じがあってもうアレですね。
個人的にはとりわけ作中で何度も扱われた十割という単語も好きで、聖という超越者を表現しながらも村紗の行動描写にも一貫性を与えていて実に読み易い。その一方で聖が葬送十割の目的で海戦に乗り込んだ最中も村紗は海への斬奸状十割で挑んでいるのだからああも迫力が出る物だったのでしょう。
前編の方でも氏の作品を取り上げましてそちらも長文感想が出来上がってしまったのですが、あちらを洋画や戯曲の格調高さと称するならばこちらの方は活劇や少年漫画でしょうか。
文章至る所からギラつく剥き出しの感情が、こちらの方が渇望的に読者側を煽ってくる構図となっていて、本当に両作甲乙付け難いものです。
ただもし本当に雌雄を決させるのであればこちらでしょうか、バードの梟雄っぷりと村紗の対比の熱量がやはり好きなもので…。

 

  • 笠にゆうきを隠して 作者:ハンナブラ サイズ:40.6kb

艶めかしい肢体の描写や軟膏の塗布の描写がやや成人向けに片足突っ込んでいるような所もこの作品の特筆点に挙げられますが、それ以上に鈴仙の淡い感情の機微が丁重な点も挙げられましょう。
恋慕を自覚する鈴仙とは正反対に無自覚な魔理沙の姿、薬売りとしての余所行きの変装で自らの期待や恋情までもを無理矢理隠そうとする姿。個々の描写に不随する感情や行動が繊細に描かれており、それを鈴仙の一人称視点という文体で巧みに表現されていました。寧ろ視覚的な表現という点で言えば、先述の艶めかしさもこの機微の表現の一部かのように思わされていたのかもしれません。
後はやはりタイトルにもあるように、笠と髪についてでしょうか。変装時には笠の下に髪を纏めている鈴仙が、魔理沙の何気ない一言によって髪を意識し出して。
首筋から梳き上げる仕草もシュウカイドウの匂いを意識してしまう所も、鈴仙の感情を切に表現していて読み応えがあったものでした。
にしてもシュウカイドウがウリによくあるハート型の葉を付けるって点もなんか色々考えてしまいます。

 

  • 殺しあい 作者:バームクーヘン サイズ:4.7kb

冒頭は殺伐っぽい文脈を匂わせているのに、少し意固地になってしまう穣子の姿と言い静葉のあっけらかんとした口調と言い、ミスティアも含めてなんだかんだ可愛らしい作品に纏まっていたのが短編的で良かったと思います。物騒って単語に違和感を覚えなかった静葉もちょっと抜けてて良い。
後は地方名で勘違いオチを付けておいてから実は穣子だけじゃなく静葉も勘違いしていたってラストに落とし込んでいたのが何気に好きで、地方名の部分だけで終わってたらマイナス評価だったかもしれないぐらいには丁度の塩梅に落とし込まれていたように思えます。
しかし『これではんごろしにします』のおばちゃんの画像を最近めっきり見ませんね…。ネットの流行りの栄枯盛衰の速さを切に感じてしまいます。

 

  • 魔法キャンディの浮かぶ夜 作者:あぶらげ サイズ:9.9kb

魔法の加減が分からなくなったパチュリーに対する荒療治と温かさが主軸の作品で、その荒療治に料理の如く繊細な下拵えの手作業を設けるというのも面白い作品でした。
紅魔館ではいつもの事だと言いたげに緊張を感じさせないふんわりとした文体が、そのまま作品の雰囲気にも現れていたように思えるぐらいにとにかく優しい感触が印象的で。最後のレミリアの一言も失礼でちょっと我儘で、だけれども作品全体から漂う優しさがそれを中和していたのが良かったように思えます。
魔法キャンディ、やはり発想が可愛らしいですね。少し見てみたいかも。

 

  • Creation of Creator 作者:きさ サイズ:119.6kb

これで何度目かの長編特有の感想を書き過ぎて向こうに投稿しちゃうやつを成し遂げてしまったのでこちらには手短に。
この作品、一度秘封の中編を書いた事のある身としても秘封倶楽部の二人の位置付けをこう運ぶのかと感嘆させられたものでした。
深夜に氏が秘封に苦戦している旨をよく話されていたので如何なる物になるかと考えていたら本当に凄い物を読んでしまったという気持ちで満たされるぐらいの勢い。
あとこれはしょうもない話ですが、ES細胞然り生物倫理が技術進歩の小さくはない足枷になっていると思っている身としてはテセウスの船と称するのも強ち間違ってないのです。
将来の利権と今の利権の二兎を追ってしまい全ての原因となってしまった門脇氏に対し、その後の行いを加味しても自分は怒りこそ抱きはすれど責める事は出来ないですね…。
それはそうとして京大病院に時折通っている友人のせいで病院のシーンが思いっきりそれにしか見えなくなっちゃったの本当に現実のバグ。あそこのマスコットキャラのくーぷぅの顔が過ぎってしまったの事故ですよこんなん。なんで??

 

  • 映画、city、やさしさに 作者:水上缶詰 サイズ:27.5kb

まず演繹的な入れ子メタフィクションって時点で良い発想ですよね。どこまでが現実階層でどこまでが劇中劇階層か分からないそのあやふやさが実に頽勢的。
幸福の中でも不幸に充てられて前に進めなくなってしまう前二篇、居なくなった姉の幻想がこびり付いて離れず憑き纏い害を成し、それはまさしく酩酊特有の浮遊感のようで。そこから直後の一篇では紫苑が女苑の手の届く範囲に居てくれてかつ現状を打破する切っ掛けにすら成り得るという、直前からの見事な対比を描き切られ地に足の付いた安心感さえ覚えたものです。
繰り返し描かれた呪いというのも、結局この作品においては紫苑と女苑の姉妹関係とすらも思えそうな物でしたが、それを最後では同時に愛や祝福とさえも言わせしめる推移もまた良く。
不幸の連鎖の奥底からささやかな幸福に至るまでのカタルシスは成程こういう階層構造の物語でも得られるのだなとさえも思わされます。御見逸れしました。
まあしかしこの劇中劇階層、全部面白いからズルいものですよ。それぞれ単一の作品として振る舞えるのに、相乗効果でもっと面白くなってるのだから尚の事です。

 

  • あかり from HERE 作者:灯眼 サイズ:31.7kb

いやその…前編で長文感想投げた作品の作者二名に間を開けずにまた長文感想を投げてしまい…。いや面白い作品を書く方が悪いが?開き直りが過ぎる
執筆活動への意識的な側面という点がとりわけ面白かった当作品ですが、やっぱりラストシーンへの加速が滅法に気持ち良い作品としても凄く面白いんですよ。中盤で匿名のファンレターに対してどこか雲を掴むような反骨精神を抱いて執筆に臨んだ阿求が、最後に小鈴への嫉妬とも言える明確な反骨精神を持って執筆に熱を入れた、謂わば成長物語と考えてもやはり好き。
恐らく前編で取り上げた氏の別の作品が無かったら、まさしく"氏と言えばこの作品"という感触が大幅に更新されるような作品だったとも言えるでしょう。
因みに少し申し訳無い事なのですが、あとがきを読む直前までタイトルの由来が氏の名前が"灯"眼だからというのもあるのかなと勘違いしてました。
元となった曲を折角なので聞いてみたら成程、映姫の説教の文脈はこれもあったのかもとも。『日々の隙間にふざけろ、目一杯遊べよ!』というリリックは阿求にも映姫自身にも掛かっているようで愛おしい。

 

  • 少女ああああのデータはありません 作者:転箸 笑 サイズ:13.1kb

大学に進学して身の丈が逆に縮まった菫子が久々に怪異と触れて奮起する、その道中の感情の持ち様が不思議な現代的説話譚にマッチしていて妙な魅力があったのが印象的。
それでいてバイトとの兼ね合いや自販機で購入する飲料といった部分でしっかりと菫子の成長という要素を抑えていたのが、短い作品ながらも確かな読み応えを生み出していたように思えます。
それと菫子の感情面についても、昔抱いていた万能感が成長するにつれて薄れていく、ダニング・クルーガー曲線の如き感情を自認しながらも、初めから自販機を運ぶ前提で思案する姿も良かったものでした。
その文脈で行くと『私には、その時間に見合うだけのお土産話をこさえる義務がある。』って一文も好きですね。この菫子なら幻想郷に行けなくなる訳が無いという感覚を文中で補完してくれるのが心地良く。
しかし菫子のように"喉の乾いている"人間は自販機からしてみれば少数派なのでしょうか。何か物哀しいような気がしてなりません。

 

氏が氏なので『半年遅れの夜伽話への追悼作品かな?』ってのが第一感想でした。多分そんな事無いと思うし凄い失礼だと思う。
二進も三進も出来ずにその場で停滞し退廃していくだけの二童子の表現が実に蠱惑的かつ柔らかなタッチで描かれていたのが印象深かったものでした。
悲観的なハズなのにそれを匂わせまいと自ら穢那の火に焼べられる里乃と、その衝動を余す所無く拾わされる舞の不埒さが汚らわしくも悲哀さえ纏っているのです。
ポケモンブラック・ホワイトのNの部屋を思わされるような、そんな気分。まあしかしそっちの畑の人は本当に表現が上手いのだと実感させられましたね…。
『だから茶番。ぜんぶ茶番。』から続き畳み掛ける一行だけでも特有の強さを感じずにはいられません。それはそうとしてサトノK2ってなんだよ。

 

  • 結局、釣れるに越したことはない 作者:めそふ サイズ:31.3kb

総じて王道の二次創作と言うべきか、そういった起承転結を以てはっきりと示してくれる展開の読ませ方が実に面白い。
特に終盤においてフランドールが得た悔しさを咲夜も味わい、かつそれ以上の悔しさを得させてから共同作業という形に運ぶ事で、二人共いっぺんに釣りの楽しさを享受させるその展開の妙ですよ。
湖のヌシに打ち克ち竿を振り上げた瞬間から地の文が情景描写に振り切っている部分も、こちら側の読みたい文章を丁寧に出力してくれた感じさえもあって実に楽しいのなんの。
全体的に読み易い文章としてのお膳立てがかなり高く、40kb弱の作品だと言うのにスルスルと読ませてくれるというのもあったのだと思います。
しかし十六夜咲夜とかいうキャラクターを魅力的に描いてる部分もやはり好きなんですよね。湖のシーンで釣りの醍醐味は景色だの宣っておきながら、『やはり軽率に適当な事を言う物じゃない』って後々になって地の文で暴露されたらたまったものではない。けれどもそこも面白いのだから実に不思議。

 

あとがきはないよ