洪水「ディリューヴィアルメア」

もうどうにでもなぁれ

東方小説投稿サイト「東方創想話」 作品集236 概略

前回作品集では変則的な書き方になってしまったのでこの形式はほぼ半年ぶりという計算になります。
幻想人形演舞の海外勢による非公式MODがこの間発表されたのでまたそっちの記事も近々書きたくはあるのですが、なんかそそわ関連の記事ばかり並んでいるのが壮観でそれを崩したくない思いが…
因みにあちらの方には有志として久侘歌ちゃんの立ち絵で参加させて戴きました。クレジットに名前が乗るのは誠に嬉しい事です。
剛欲異聞も遂に8月に出る事がほぼ確定していますしそちらも楽しみ。

 

まあそういう事でここいらに東方創想話という東方小説の投稿サイトがありまして、今回はその236個目の作品集についての概略記事となります。
概略とはなんぞやと言いたげに感想ばっか書いてる身ですが、まあ1kb=500文字換算でいつも通りなのでいつも通りお付き合い下さい。

 

東方創想話 作品集236(2021 5/14-08/20)

 

概略

・初投稿の方は8名、物凄く期待できるムーブをしている方もいらっしゃるので楽しみ
・作品集が埋まった時点での2000点超えは3作品、実際今作品集は最大トーナメント編でした
・埋没まで3ヶ月超、去年の同時期と比べるとペースがかなり落ちてますね


ピックアップ作品紹介(作者名敬称略)

  • イン・アワー・ロータス・ランド 作者:Cabernet サイズ:132.4kb

美宵達座敷童子が一つの家の栄枯盛衰を過去から見守ってきた事の陳述。


この物語の何が強烈かと言われれば、間違いなく二十世紀という動乱の時代を駆け抜けた座敷童子たちの描写の積み上げと、幻想郷の時代推移と共に変わっていく大衆の生き方なのでしょう。
それ故に座敷童子が淡い夢に酔わせ記憶の断絶を引き起こさせた事によって、その時代推移の暗部の仔細を誰も話せずに現在の時間軸まで生き続けてきた美宵ちゃんの悲壮が光り、そして過去がより重苦しく映るのです。
オリジナルの家系図を以て過去の人里についての描写を深め、かつ三桁ものkb数によって表現されたこの『二つの心臓の大きな川』の如き物語は、最早ありきたりな悲劇の域をとうに超えていたのでしょうね。
終盤に至って文中に蓄積させた悲哀が堰を切って放出され、読者側の感情移入を強めてきている文章の作り方も実に巧妙で、作品に対する感情のコントロールの上手さを感じたものでした。
にしても蛮奇といい依神姉妹といい鳥獣戯楽といい彼女達の語る物語もまた面白く、それによって美宵の語った物語に一層に深みの出てくる物語構成もまた乙なものです。
この長さでしか得られない感傷と読後感に支配される、激甚な一作とも言えるような長編でした。
それはそうとしてこれが東方創想話における美宵タグのまだ2作目という事実が凄く謎。

 

  • 歩くような速さで 作者:くろさわ サイズ:48.0kb

ルナサの奇態な教諭依頼とその末までの話。


この話は伏線が後々に開花するような中編ではなく、寧ろ日常の内にあった特別な事を数個纏めて書き出して物語の形としているような雰囲気から成立しているものであったと言えます。
だからルナサがレミリアパチュリーと交流し彼女達の成長から何かを得る、といった事が特徴的に描かれる訳では無く本当にその楽器の腕前の成長を喜ぶ講師の視点でこの物語が綴られていたと思うのが一番自然なのかなとも。
そういった日常の起伏の中に挟まれる魔理沙や早苗も物語の一員として違和感無く溶け込んでいる様も妖精メイドたちのキャラの立ちようも、タイトルの音楽記号のように緩やかに進行している物語を演出しているようで面白かったり。
後は終盤のレミリアパチュリーが演奏会を開くその開場間際の描写で一瞬文調が変化するのも、演奏会の空気をその文調によっても表現しているかのようで雰囲気作りが実に綺麗な物語でした。
音楽的な妙を含んで展開される会話も見所な柔らかい空気の作品と言い換えても良いですね、好き。
早苗さんとウォークマンの組み合わせと聞いてサークル:芦山文學さんの『コロラドから来た男』(『大芦山文學紀要』収録)を思い出すのは性でしょうね。作品の毛色は違うとは言え。

 

  • そのたびごとに 作者:うぶわらい サイズ:11.8kb

阿求だけが覚えている小鈴と積み上げたじゃんけんの記憶。


何と言っても、小鈴がお決まりの癖でお決まりのセリフでお決まりのパーを出す、そのなんともない行動に求聞持の視点を通す事によってそのトレース具合を面白おかしく、かつ阿求の情動を以て描かれていたのが心地良かったのです。
御阿礼の子という独特の、謂わば小鈴よりもずっと大人びて描かれるべくして描かれる立場が序盤の語り口感情持ちでは強く見える一方で、後半に至るにつれてじゃんけんが段々と交友関係の一端の行動として描かれるようになっていき、最後には何の変哲もないただのじゃんけんとなって阿求の描写も小鈴と等身大になっていく様は、複数のチャプターで区切られた短編はかくあるべしとすらも思わされた程でした。
特に阿求を描く作品というのは、やはり阿求の有する常人ならざるものにスポットを当て鮮明に映し出してくれる作品が好きなのだなあとも思わされます。

 

  • 私らしくいきましょう 作者:朝顔 サイズ:17.7kb

布都と一輪の華やかな一日の話。


物部布都というキャラクターの、やや時代錯誤で道教よりも神道に寄ったスペルカードを使うような側面からこういった物語を紡がれるものかとある意味関心したというのもあります。
それでいて彼女達の時代感覚や少女性という部分にも踏み込んで丁重かつカラっとした物語として仕立てていたというのも実に面白く、『自分らしさ』という主軸も含めて気持ち良く読ませて戴きました。
何というか真面目な箇所とちょっとふざける箇所の文中の流れが啀み合わずに両立しているのも話の立て方の綺麗さを感じもしましたね。
原作のあれこれを作品の要素として昇華させるのが好きな方の作品なんだろうなとも思えた作品です。

 

  • 具体的な生活 作者:ドクター・ヴィオラ サイズ:49.4kb

文の奮起、及びはたてが追い求めたうつくしきものの姿を綴る為の物語。


この作品の素晴らしい点として、冬山の厳しさと雪模様の厳しさで文章を仕立てつつも、物語の主要となるポイントは色彩豊かに彩る事で冬の残酷さをこれ程かと表現しながらもその中に根付いた温かさをも内包させていた事だと思っています。
その上で文とはたてが山の険しさに挑む際において、対峙した時のその友情関係をうつくしいことと扱う事で冬の残酷さをも二人が打ち破ってくれるという確信さえも抱かせる動機付けのやり方が素晴らしかったのです。全体の流れがほぼそうであるべきという展開の中で進行し、結果全てが在るべき場所に戻った上で文もはたても胸中に以前よりも強い思いを持って物語を終わったこの物語は、読後も熱を帯びた爽快感を感じさせた程。
かつ作中では改行や文の取り方が練られており、読者が視覚的にも物語の勢いを把握しやすくなっている構成もまた、氏の作品に対する技量や思慮の一部分に触れさせてくれたという気分を味わったものです。
それに美的センスに囚われない"うつくしさ"や天狗としての生涯の趣味への打ち込み方といった登場人物の個々の想いも読ませる文章の取り方が緩やかで透徹で愛おしい作品とも思えました。

 

  • 見てる 作者:夏後冬前 サイズ:20.9kb

二人の念写使いが意気投合して写真を撮る話。


はたてのポジティブ性と菫子の若干斜に構えた感じの対比を上手く使った上で起承転結の物語に丁寧に落とし込み、キャラクターのちょっとした成長物語としても機能させていた物語として実に巧妙でした。
事件から逃げようとする菫子を諭すはたての語調に若干の弱々しさを湛えさせて、菫子視点の書き口の中での感情のハードルを下げさせていた点についても、作劇上で読者に感情移入させ易くしているように感じて良かったり。
個人的には燻製というちょっと洒落た小道具を使ってはたてと菫子の邂逅を楽しげに描いていたのが特に好きなポイントで、会った場所の舞台演出としても共通事実で話に花が咲く前の緩衝材としても納得が行くように描かれた繊細さを感じます。
何と言いますか、全体的な流れがとてもスムーズでスクロールバーが後どれくらいかとか確認しようとする間も無く、丁度良い長さの短編として落とし込んでいる面白い作品と考えるのが一番筋が通っているのでしょうね。

 

  • 唯春の夜の夢のごとし 作者:灯眼 サイズ:36.2kb

女苑が紫苑の禍福で儲ける夢の中の話。


女苑の視点を介して描かれる人里の模様と、それが物語が進む毎にどんどん変容していく様のトントン拍子感覚が面白く、破滅へ一直線に駆け抜けるような感覚を覚えるような物語です。
一応ジャンルを明文化してしまえばこの作品は恐らくシュールギャグに位置するのだと思いますが、それでも読んでいる最中は全然そんな事を思わないというのはそれだけ物語として綺麗に成立していたからなのかもしれません。
実際、姉妹という関係性を不変の物として扱った上で女苑が紫苑へ抱く感情を揺るがしていた書き口が、巡り巡って女苑の我欲の矛先が全てを無かった事にしようとしたというのが、そうあるべき展開と思えるぐらいには力強かったのです。
ついでに作中で仄かに語られた紫や慧音、阿求に小鈴の言動も『このキャラクターならこうするだろうな』という感覚を伴っているのも、キャラクターの人選が氏らしいというのも含めて面白く読めました。
中盤の女苑の掛け声はやっぱり誰しもがSOUL'd OUTを思い浮かべるんですかね?ですよね?

 

こいしの視界に入った地上の四季折々の話。


無季節の殺風景が広がる地底の描写から始まって、そこから春夏秋冬とこいしの地上探索を四篇連立させながら、その上で些細な描写に地霊殿でも年月が経過しているという要素を加味させている物語構成が実に際立っていました。
それで居てそれぞれの季節において特色のある情景を書く中で、その地の文がこいしの五感を介した少女チックな文章としてきっちりと整えられている箇所に、物語としての完成度の高さを見出したもの。
しかもさとりの扱いを単純に地底における微細な季節変化を示す小道具に留めずに、こいしとさとりの関係性という形で再利用していく妙もあって、雰囲気物の短編への執念に近い感情さえも感じられそうで。
最終的に地霊殿の執務室が無季節から季節ごちゃ混ぜになるのも何気に好きだったりします。

 

  • A to Z memory 作者:カニパンを飾る サイズ:169.8kb

AからZまでを通して描かれる、霊夢萃香魔理沙と幻想郷のスペクタクル。


この作品は幻想郷にあって幻想郷にあらぬような独特の世界観のようで、読み進めると段々作品がどういった構造をしているのか漸く分かってくる、そのタネ明かしの順序がかなり練られた長編でした。
大きな変化を巻き起こしてしまった魔理沙とその変化に対し何も出来なかった霊夢の間の隔絶は余りにも惨く、全てが明かされた頃には全てが終わって何も太刀打ち出来なくなってしまっていて離愁以外の表現のしようも無いレベルで。
ただ、他の方の感想に見られるような辛さを自分がそれほどまでに感じなかったのは、恐らく氏が同作品集に投稿された『れいすいかショートショート』における霊夢萃香のほんわかとした雰囲気が、きっとこの作品においても最終的には大団円に落ち着いてくれるのではないかという期待を抱かせたからなのだと思います。
その状態の中、世界から爪弾きにされた者同士の日常シーンへと至る為にもう一度霊夢魔理沙を引き合わせた上で、しっかりと離別の挨拶を以て決着を付けてくれた展開には感謝しかありませんでした。
本当にここまで長くて正解な作品で、AからZまでのタイトルが皆意味を持っていたのも素晴らしく、長編と言うよりも最早巨編と呼んだ方が差し支え無い物語だったのでしょう。
読み返したいという思い以上に初読の感想をずっと心に仕舞っていたいという感情が大きい作品ってのもまた乙な物ですね。

 

  • 海辺の宿題 作者:海景優樹 サイズ:58.2kb

幻想郷に顕れた海と、それに対する村紗の想いの物語。


村紗の抱いているであろう海への感情を善悪問わず描く舞台として幻想郷内部に海そのものを持ってくるという発想がまず好きなのですが、それに付随した幻想少女達の楽しげな雰囲気を主軸とは関係ない部分で描いてくれたのもまた好きでした。
その何気ないかのような描写のお陰で村紗の海へのスタンスの浮き足立っていない部分が浮き彫りになるからこそ、一度目の海小屋後のこいしとの問答や二度目の海小屋後の戦闘シーンで見せた激情が映えていたのかなとも。
加えて、この作品のオリジナルキャラクターであるローレライの立場はかなり薄い方だったのですが、それも聖や命蓮寺の面々が終盤で介入しても煩くならない要因となっており、ここも村紗の心情変化を強調させる為の要素になっていたのです。
そうやって作品全体で村紗の感情の起伏に焦点を当てた上で最終的に全てを乗り越えさせ、海を消す消さない以前で物語が終わりを迎えた所に、村紗の吹っ切れとの同期さえも感じて感情の扱い方の上手さを見たものでした。
剛欲異聞が出るにあたって村紗についての多少の掘り下げがあるかと思いますが、それでもしこの作品に瑕疵の出てしまう描写があった場合はこの作品が時期の境目を感じられる示準となりそうでちょっと複雑な気分もあったり。

 


先述もしましたが今作品集は本当に素晴らしい作品が多く、一人一作のみの紹介という縛りや自分の選り好みの問題で多様な珠玉の作品を紹介出来ていないという問題が強烈で…。
作品集内でポイントが高い順に上からローラーしていけば他の面白い作品とも邂逅出来るハズですので、気が向いたら是非慈善事業ぐらいのお気持ちでどうぞ。
本当に面白い作品が多くて紹介漏れを列挙してもかなり長くなるから出来ないのも苦痛。

 

後はいつもの勝手な私信となりますが、10月24日開催予定の秋季例大祭においてサークル申し込みをさせて戴きました。
今までにtwitterに投げてきた絵や新規で書いた絵を10枚ぐらい掲載したイラスト本を出す予定ですので、まあそれなりの時にまた告知します。