洪水「ディリューヴィアルメア」

もうどうにでもなぁれ

東方小説投稿サイト「東方創想話」 作品集235 感想後編

前編を投稿した時に1ヶ月以上掛かるかもしれないな、と思っていたのですがこうして3週間で投稿する事が出来て良かったのなんの。とりわけ忙しい時期も過ぎ去って、束の間の休息を味わいながら創想話に入り浸れる感慨を身に染みて感じております。
現在最新となっている作品集236からはまた概略のスタイルに戻していきたいと思いますので、宜しければ今後もお付き合いくださいな。

 

ピックアップ作品紹介(作者名敬称略)

  • 舟幽霊の復讐号 作者:ドクター・ヴィオラ サイズ:32.9kb

感想を書き過ぎて結局向こうにも投稿しちゃうの、なんだかんだ言って自分で設けた言い訳すらも破っている感じがあってもうアレですね。
個人的にはとりわけ作中で何度も扱われた十割という単語も好きで、聖という超越者を表現しながらも村紗の行動描写にも一貫性を与えていて実に読み易い。その一方で聖が葬送十割の目的で海戦に乗り込んだ最中も村紗は海への斬奸状十割で挑んでいるのだからああも迫力が出る物だったのでしょう。
前編の方でも氏の作品を取り上げましてそちらも長文感想が出来上がってしまったのですが、あちらを洋画や戯曲の格調高さと称するならばこちらの方は活劇や少年漫画でしょうか。
文章至る所からギラつく剥き出しの感情が、こちらの方が渇望的に読者側を煽ってくる構図となっていて、本当に両作甲乙付け難いものです。
ただもし本当に雌雄を決させるのであればこちらでしょうか、バードの梟雄っぷりと村紗の対比の熱量がやはり好きなもので…。

 

  • 笠にゆうきを隠して 作者:ハンナブラ サイズ:40.6kb

艶めかしい肢体の描写や軟膏の塗布の描写がやや成人向けに片足突っ込んでいるような所もこの作品の特筆点に挙げられますが、それ以上に鈴仙の淡い感情の機微が丁重な点も挙げられましょう。
恋慕を自覚する鈴仙とは正反対に無自覚な魔理沙の姿、薬売りとしての余所行きの変装で自らの期待や恋情までもを無理矢理隠そうとする姿。個々の描写に不随する感情や行動が繊細に描かれており、それを鈴仙の一人称視点という文体で巧みに表現されていました。寧ろ視覚的な表現という点で言えば、先述の艶めかしさもこの機微の表現の一部かのように思わされていたのかもしれません。
後はやはりタイトルにもあるように、笠と髪についてでしょうか。変装時には笠の下に髪を纏めている鈴仙が、魔理沙の何気ない一言によって髪を意識し出して。
首筋から梳き上げる仕草もシュウカイドウの匂いを意識してしまう所も、鈴仙の感情を切に表現していて読み応えがあったものでした。
にしてもシュウカイドウがウリによくあるハート型の葉を付けるって点もなんか色々考えてしまいます。

 

  • 殺しあい 作者:バームクーヘン サイズ:4.7kb

冒頭は殺伐っぽい文脈を匂わせているのに、少し意固地になってしまう穣子の姿と言い静葉のあっけらかんとした口調と言い、ミスティアも含めてなんだかんだ可愛らしい作品に纏まっていたのが短編的で良かったと思います。物騒って単語に違和感を覚えなかった静葉もちょっと抜けてて良い。
後は地方名で勘違いオチを付けておいてから実は穣子だけじゃなく静葉も勘違いしていたってラストに落とし込んでいたのが何気に好きで、地方名の部分だけで終わってたらマイナス評価だったかもしれないぐらいには丁度の塩梅に落とし込まれていたように思えます。
しかし『これではんごろしにします』のおばちゃんの画像を最近めっきり見ませんね…。ネットの流行りの栄枯盛衰の速さを切に感じてしまいます。

 

  • 魔法キャンディの浮かぶ夜 作者:あぶらげ サイズ:9.9kb

魔法の加減が分からなくなったパチュリーに対する荒療治と温かさが主軸の作品で、その荒療治に料理の如く繊細な下拵えの手作業を設けるというのも面白い作品でした。
紅魔館ではいつもの事だと言いたげに緊張を感じさせないふんわりとした文体が、そのまま作品の雰囲気にも現れていたように思えるぐらいにとにかく優しい感触が印象的で。最後のレミリアの一言も失礼でちょっと我儘で、だけれども作品全体から漂う優しさがそれを中和していたのが良かったように思えます。
魔法キャンディ、やはり発想が可愛らしいですね。少し見てみたいかも。

 

  • Creation of Creator 作者:きさ サイズ:119.6kb

これで何度目かの長編特有の感想を書き過ぎて向こうに投稿しちゃうやつを成し遂げてしまったのでこちらには手短に。
この作品、一度秘封の中編を書いた事のある身としても秘封倶楽部の二人の位置付けをこう運ぶのかと感嘆させられたものでした。
深夜に氏が秘封に苦戦している旨をよく話されていたので如何なる物になるかと考えていたら本当に凄い物を読んでしまったという気持ちで満たされるぐらいの勢い。
あとこれはしょうもない話ですが、ES細胞然り生物倫理が技術進歩の小さくはない足枷になっていると思っている身としてはテセウスの船と称するのも強ち間違ってないのです。
将来の利権と今の利権の二兎を追ってしまい全ての原因となってしまった門脇氏に対し、その後の行いを加味しても自分は怒りこそ抱きはすれど責める事は出来ないですね…。
それはそうとして京大病院に時折通っている友人のせいで病院のシーンが思いっきりそれにしか見えなくなっちゃったの本当に現実のバグ。あそこのマスコットキャラのくーぷぅの顔が過ぎってしまったの事故ですよこんなん。なんで??

 

  • 映画、city、やさしさに 作者:水上缶詰 サイズ:27.5kb

まず演繹的な入れ子メタフィクションって時点で良い発想ですよね。どこまでが現実階層でどこまでが劇中劇階層か分からないそのあやふやさが実に頽勢的。
幸福の中でも不幸に充てられて前に進めなくなってしまう前二篇、居なくなった姉の幻想がこびり付いて離れず憑き纏い害を成し、それはまさしく酩酊特有の浮遊感のようで。そこから直後の一篇では紫苑が女苑の手の届く範囲に居てくれてかつ現状を打破する切っ掛けにすら成り得るという、直前からの見事な対比を描き切られ地に足の付いた安心感さえ覚えたものです。
繰り返し描かれた呪いというのも、結局この作品においては紫苑と女苑の姉妹関係とすらも思えそうな物でしたが、それを最後では同時に愛や祝福とさえも言わせしめる推移もまた良く。
不幸の連鎖の奥底からささやかな幸福に至るまでのカタルシスは成程こういう階層構造の物語でも得られるのだなとさえも思わされます。御見逸れしました。
まあしかしこの劇中劇階層、全部面白いからズルいものですよ。それぞれ単一の作品として振る舞えるのに、相乗効果でもっと面白くなってるのだから尚の事です。

 

  • あかり from HERE 作者:灯眼 サイズ:31.7kb

いやその…前編で長文感想投げた作品の作者二名に間を開けずにまた長文感想を投げてしまい…。いや面白い作品を書く方が悪いが?開き直りが過ぎる
執筆活動への意識的な側面という点がとりわけ面白かった当作品ですが、やっぱりラストシーンへの加速が滅法に気持ち良い作品としても凄く面白いんですよ。中盤で匿名のファンレターに対してどこか雲を掴むような反骨精神を抱いて執筆に臨んだ阿求が、最後に小鈴への嫉妬とも言える明確な反骨精神を持って執筆に熱を入れた、謂わば成長物語と考えてもやはり好き。
恐らく前編で取り上げた氏の別の作品が無かったら、まさしく"氏と言えばこの作品"という感触が大幅に更新されるような作品だったとも言えるでしょう。
因みに少し申し訳無い事なのですが、あとがきを読む直前までタイトルの由来が氏の名前が"灯"眼だからというのもあるのかなと勘違いしてました。
元となった曲を折角なので聞いてみたら成程、映姫の説教の文脈はこれもあったのかもとも。『日々の隙間にふざけろ、目一杯遊べよ!』というリリックは阿求にも映姫自身にも掛かっているようで愛おしい。

 

  • 少女ああああのデータはありません 作者:転箸 笑 サイズ:13.1kb

大学に進学して身の丈が逆に縮まった菫子が久々に怪異と触れて奮起する、その道中の感情の持ち様が不思議な現代的説話譚にマッチしていて妙な魅力があったのが印象的。
それでいてバイトとの兼ね合いや自販機で購入する飲料といった部分でしっかりと菫子の成長という要素を抑えていたのが、短い作品ながらも確かな読み応えを生み出していたように思えます。
それと菫子の感情面についても、昔抱いていた万能感が成長するにつれて薄れていく、ダニング・クルーガー曲線の如き感情を自認しながらも、初めから自販機を運ぶ前提で思案する姿も良かったものでした。
その文脈で行くと『私には、その時間に見合うだけのお土産話をこさえる義務がある。』って一文も好きですね。この菫子なら幻想郷に行けなくなる訳が無いという感覚を文中で補完してくれるのが心地良く。
しかし菫子のように"喉の乾いている"人間は自販機からしてみれば少数派なのでしょうか。何か物哀しいような気がしてなりません。

 

氏が氏なので『半年遅れの夜伽話への追悼作品かな?』ってのが第一感想でした。多分そんな事無いと思うし凄い失礼だと思う。
二進も三進も出来ずにその場で停滞し退廃していくだけの二童子の表現が実に蠱惑的かつ柔らかなタッチで描かれていたのが印象深かったものでした。
悲観的なハズなのにそれを匂わせまいと自ら穢那の火に焼べられる里乃と、その衝動を余す所無く拾わされる舞の不埒さが汚らわしくも悲哀さえ纏っているのです。
ポケモンブラック・ホワイトのNの部屋を思わされるような、そんな気分。まあしかしそっちの畑の人は本当に表現が上手いのだと実感させられましたね…。
『だから茶番。ぜんぶ茶番。』から続き畳み掛ける一行だけでも特有の強さを感じずにはいられません。それはそうとしてサトノK2ってなんだよ。

 

  • 結局、釣れるに越したことはない 作者:めそふ サイズ:31.3kb

総じて王道の二次創作と言うべきか、そういった起承転結を以てはっきりと示してくれる展開の読ませ方が実に面白い。
特に終盤においてフランドールが得た悔しさを咲夜も味わい、かつそれ以上の悔しさを得させてから共同作業という形に運ぶ事で、二人共いっぺんに釣りの楽しさを享受させるその展開の妙ですよ。
湖のヌシに打ち克ち竿を振り上げた瞬間から地の文が情景描写に振り切っている部分も、こちら側の読みたい文章を丁寧に出力してくれた感じさえもあって実に楽しいのなんの。
全体的に読み易い文章としてのお膳立てがかなり高く、40kb弱の作品だと言うのにスルスルと読ませてくれるというのもあったのだと思います。
しかし十六夜咲夜とかいうキャラクターを魅力的に描いてる部分もやはり好きなんですよね。湖のシーンで釣りの醍醐味は景色だの宣っておきながら、『やはり軽率に適当な事を言う物じゃない』って後々になって地の文で暴露されたらたまったものではない。けれどもそこも面白いのだから実に不思議。

 

あとがきはないよ

東方小説投稿サイト「東方創想話」 作品集235 感想前編

東方虹龍洞~Unconnected Marketeers、気付けば体験版どころかSteam製品版、はたまたパッケージ製品版までもが出てしまいましたね。
時間の推移も熱量も甚だしく、ExやLunaticでの縛りプレイを和気藹々とやっている内に早数ヶ月…と思いきやまだ1ヶ月。twitterでもなんかよくわかんない考察モドキや魅須丸さんを軽く書いた絵が異様に伸びたりして新作ブーストを思い知らされたのも遠い昔のように感じます。
その他にも静岡で春季例大祭が開催されるわTouhou World Cup2021が開催されその日程を全て終えるわモンハン新作は出るわモンハンは2回もアプデされるわ、個人的には色々な出来事が目白押しでした。

 

…何が言いたいかって?
東方創想話に全然入り浸れなかったんですよ。

 

大きい理由として4月入ってから格段と忙しくなった事も挙げられますが、まあなんやかんやでそんなこんななので今回は概略が書けません。
何せタイトルも『作品集235 感想前編』ですからね。という訳で今回は肩の力を抜きつつ、備忘録の側面を一層強くして進めたいと思います。
いつもの堅苦しい前置きも概略も無し、何故か作品集235を前半後半50作ずつに分けて十作品ピックアップ紹介みたいな流れになりますが、細かい事は気にしないで貰いたいです。
結局四日坊主でしたね


ピックアップ作品紹介(作者名敬称略)

  • かげのおおかみ 作者:蕗 サイズ:26.2kb

毎度幻想郷という空間に対し、如何に自機や面ボス達が和気藹々としようとも妖怪と人間の間にはどうしようもない殺伐さで隔絶が存在しているという前提で物語を見る事が多い気がします。
そもそもこの作品はそういう先入観を持って読んだからこそ自分にバチクソ刺さったと言っても過言では無いのですが、でも実際にはと設定開示された後の流れも実に上手い。
妖怪と人間の境界線は確かに存在しているのだけれども、道理の通し方の中に優しさが存在しているのが語り部の視点からも言葉選びにも表れている。著者の芯の通った愛が表出してるんですよ。
なんと言うか、モンスターズ・インクみたいですよね。主人公コンビが頭と毛ってのもそうだし(?)、少女の中にある忘れられない思い出に最後に手が届く所もそう。
あとこの作品の文章の妙として、オチを知ってから読み返すと文中に全て書いてあって。推理小説物を読む時はそういう頭の働かせ方がなんとなくで出来ているので一周目でも気付く事が多いのですが、今回はそういう雰囲気を一切感じさせずに驚くような開示をしてきたので、完全にしてやられたという気分になりました。前述の通り先入観が完全にキモ。

 

  • いつかさよならを言うまでは 作者:海景優樹 サイズ:37.6kb

メディスンと永琳の間にある種族的な不可思議な軋轢を永遠亭周囲の反応も通しつつ、お互いの立場を交互に映し出す展開方式がカップリング物として絶妙に成立させていたのが印象的でした。
永琳の人間的な立ち振る舞いと蓬莱人的な自意識が入れ混ざっている上で、メディスンからの認識が特別視しながらも人間の範疇である点は実に書き口が丁寧だと感じたものです。
氏が好きだと公言して憚らない永メディが遂に形になりまして、最初はカップリング要素の抽出だけで物語が終わったらどうしようかと思っていたのですがそうでもなく。
キャラの感情と風景のリンクも簡潔かつ丁寧で、字の文から情景がスッと伝わってくるような綺麗さも湛えて起承転結が分かりやすく表現されていたように思えます。
基本、人によりけり許容砂糖濃度は様々だというのは周知の事実かと思われますが、自分の中では甘すぎずの位置であったのが本当に僥倖でした。
因みにですが、タイトルの『いつかさよならを言うまでは』から最後の一文が『いつまでも』というニュアンスで締められるの凄い好き。

 

  • 湖に抱きしめられた 作者:ドクター・ヴィオラ サイズ:38.6kb

この作品に関しては感想が長くなってしまった為、例外的に感想欄に感想を投げ入れてしまいました。そういう事するなら最初っから全部感想欄にブチ込めやになってしまう。よくない。
向こうでは体を立てて書いたのでこっちは崩して書きたい事だけを記述するものとします。と言ってもこの作品はなんかもう本当に凄いですからね…。
氏は前作品集収録の『「水底のラフィア」より』をアプローチにこの物語を書いたと言っていて、主要な登場人物がわかさぎ姫とパチュリーという点は言わずもがな、本と彼女達の関係性を説き、未開の本を翻訳する術を身に付ける姿を描いていた『湖に抱きしめられて』という作品は実際そのエッセンスが多分に含まれていましたね。
ただあちらの作品が読者も傷つけないような物語として進行していたのとは対照的に、この物語はどこまでも不器用なパチュリーが自らを奮い立てて読者を引き摺り込もうとしていたのが印象的でした。
本当に言葉遊びが素晴らしい。まるで戯曲を紡ぐかの如く描かれる氏の作劇に目を奪われてしまうのですからつくづく才能と称したくもなりますよ。それも氏に対してムカつきを抱くレベルの。
何度読み直しても終盤のパチュリーが如く『ピャーー!』ってなっちゃいますからね。
ズルい作品ですよ。本当に。

 

  • 首を長くしてその日を待つ 作者;阿上坂奈 サイズ:11.8kb

三つの掌編で蛮奇のキャラを立てながら、相手に人間と妖怪の距離感を顕著に表せる三者を取って蛮奇の背景を軽くなぞり、そして最後に天邪鬼を出して蛮奇の内面を描写する展開。
若干ほんわかギャグのようで居て、それでいてどことなくそうではない物を纏った独特の雰囲気は上記で紹介した『かげのおおかみ』と似て非なるよう。
短編かくあるべしと主張せんとばかりの王道の起承転結の中で、跳ねるように登場人物達が感情を動かし言葉を紡ぐ様が本当に読んでいて気持ち良いものでした。
この作品は氏の作品の中でも特に会話文主体で、台詞と台詞の間に地の文を軽く挟みながら物語を進行させているのですが、その地の文が端的に書かれ行動と感情がほぼ直結している事によって文章全体のテンポを全く損なわず、ポンポンと会話のドッジボールを楽しめた気がします。

 

  • 怪鳥 作者:封筒おとした サイズ:14.9kb

『尾羽の燃えた軍艦鳥は持ち主の手を離れ、物語の上に羽を下ろし、やがて一つの巨大な、どす黒い巣を造った。』この一文を書いてしまえたその事実一つだけで百点満点。
既に軍艦鳥に営巣された魔理沙の傍若無人な描写もさる事ながら、この作品はやはりパチュリーを表現する為に幾重にも積み上げられたどこか病的な地の文がキマっているのなんの。
現実と幻覚の境界線が非常に曖昧な味付け、読書への病的じみた執着に手段と目的の逆転。パチュリーの懸念をサイケデリックに表現してしまったのはやはり氏の味であるとしか。
本当にこういう錯綜させられ朦朧とまで至らされるような、この風邪薬半瓶まるまる飲んだ時のようなあの感覚を文章にさせる事において氏の右に出る人は居ませんね。
しかし、冒頭においてはパチュリーと軍艦鳥が対極の存在にあるかのように小悪魔は言っていましたが、自分は究極的には同じ穴の狢であるように思えます。生活する為の最低限の活動にですらソレに侵食されてしまってしまえば、最早ウロの空いた木々と同義でしょうから。

 

  • 夢歩く妖狐 作者:灯眼 サイズ:139.7kb

この作品に関しても感想が長すぎて例外的に感想欄に感想を投げ入れてしまった。正直すまないと思っている。取り敢えず体裁整えて書きたい事は全部あっちに書いたからこっちは手短に。
まあ以前から述べている事なんですが、自分はドレミー・スイートというキャラクターをデウス・エクス・マキナ的に運用する創作が苦手でして。この作品は本当にそんな事は無く安心しましたが、ともかく人情味が強い。藍を主点に据えて苦労人属性が増しているのか、読者にとって気持ち良く喋ってくれる。『あーあ言っちゃった』とかとてもすき。
そもそもにして全体的に暖かい作品ですよね。仮面舞踏会も襖も、表面を破らない人の良心を前提に据えている訳で。それと一緒なんですよ。
あと氏の作品って個人的には秘封か永か妖のキャラ中心の印象が強いのですが、その中でも妖々夢組主体の作品の集大成のような感覚さえ覚えたもの。
もしかして『衣着ぬ』の長編バージョンだったりします?それはそれで不思議と面白いけど…。

 

  • 着衣遊泳 作者:カニパンを飾る サイズ:20.3kb

この作品では一貫してお燐が自由気儘に描かれてたなあ、とかやや散文的でそれがより一層お燐の猫らしさを深めていたなあ、とか。なんか肩の力を抜いて読める作品。
さとりにとって地霊殿が居城であるように、お燐にとっての温水プールは小さなお城だったという話なのだけれども、それを監視塔というありふれた物体によってより強く意識させられましたね。
形式的な作法、ずっとあり続けるであろうと思っていた物の崩壊、思い出の形。それがさとりとこいしの対比で、お燐だけが見ていたどこか幸せな風景だと感じられて。
だから赤い笛はお燐の物で、確かに温水プールが存在していたという証で、地に足付かない主との何よりの繋がりであり続ける事が出来るのだろうなという希望が抱けるのでしょう。
自分はこの作品を読む内に特徴的な地の文に引っ張られつつもどこか温かくほんわかとした言語に出来ない何かを何度も抱いたものです。でもきっと言語になんて出来ないんですよ。ぽんっ、って弾けて終わるだけの衝動的な感情の発露。それが何より愛おしい。

 

  • 菫子だらけ 作者:くろはすみ サイズ:16.0kb

読み終わった時の第一感想が『氏が新香霖堂読んだ記念に誰かをボコしたくなったのかな』だった節はちょっと申し訳無さが募ります。ごめん嘘。
こういう平行世界ネタで菫子を扱う作品はやけに新鮮に思えるのは気のせいなのでしょうか、菫子のやや浅慮でやや聡明な部分が露悪的に魅力的に描かれていた気がします。
後は何気にヘカーティアの描き方も好きでした。力を持つ者の足るを知っている感じや別格さがこうも短い会話や地の文だけで伝わってくるとは侮り難し、完全に物語の上ではサブのはずなのにそっちの魅力ばかりを感じてしまうとはさもありなんか。
それはそうとして、夢のシーンで二次創作やら解釈やらに対する氏のそれがちょっと含まれてそうでクスってなってしまいましたね。そういう邪推はよくない。
まあお菓子の存在しない世界なんてものは勘弁して欲しいものですが…。可笑しな話です。

 

  • とても穢れたもの 作者:転箸笑 サイズ:3.4kb

本当に構成が上手い。悪意も全く存在しない癖にここまで不条理に全てが空回りする様を見せ付けてくる様が恐ろしく上手い。
芳香が焼豚に垂涎し乞食への対応に悩む部分を強烈に描き、そしていざ渡してからは会話文主体。文章量だけで見れば竜頭蛇尾とも称せるのに、逆にそうだからこそ味が出ている。
読者への読ませ方を計算しているのかとさえ思わされる程に綺麗な物語だし、その癖してあとがきから隠しきれない悪辣な巡り合わせを感じざるを得ないのは、手放しで絶賛する程のムカつきですよ。
まあそれはそうとしてこの青娥の最後の振る舞いがどストライクでした。
霍青娥ってこういう女ですよね。大好き。

 

  • 青空の下で手をふって 作者:モブ サイズ:9.0kb

恐らくこの作品を一言で表せば、卒業式という節目から描いた成長の道筋なのでしょう。そりゃそうだ、少女の生き霊が生まれた理由は間違い無くそれなのだから。
でも菫子は少女のようにはならず、連続体のまま卒業を受け容れて幻想郷に居続けられている。それどころか卒業式を経らずとも深秘録を経て成長をしてしまえている。そしてやる事無しに寝ようとする訳でも無く、ちゃんと外の世界に地に足を付けてどちらも自分だと言い張っているかのように振る舞える。
別に卒業式が特段変容を齎すイベントでないように描かれながらも、そういった部分によって成長した姿を見せられる地の文の妙が良いものでした。
後、快晴の下で手を振るラストも少女とは思いっきり対比的でそこもまた素晴らしいですよね。自分から歩み寄れる菫子のその姿。誰かに歩み寄って貰わずとも自分の存在を誇示出来るのです。
まあしかし菫子は深秘録から概算すればとっくに高校を卒業している年代でしょうけれども、彼女の道はどこに伸びてるんでしょうか。不思議でなりません。
自分は中学は中高一貫で特に無し、高校も全校集会並の適当さで30分程度で終わり、大学の卒業式に至っては時勢で流れた人間なので、真面目に小学校の卒業式ぐらいしか節目気分が無かったかも…。


取り敢えず後編は1ヶ月後ぐらいには投げたいですね…。
まだ後半50作全く読めてないのでいつになるやら

東方小説投稿サイト「東方創想話」 作品集234 概略

最早恒例行事と化していて自分の中でも驚いている節があります。
最新記事五枠の欄の上四つが既にそそわ関連の記事で埋まっているのが逆に不安ですね…。
一応幻想人形演舞がメインのブログだったハズなのですが。

 

もう言わなくても差し支え無いかと思われますが近傍には東方創想話という東方小説の投稿サイトがありまして、今回はその234個目の作品集についての概略記事となります。
概略成分が薄くなり特に面白かった十作品のピックアップ紹介の列挙がメインとなりつつある今日この頃ですが、いつも通りの形式でいつも通り1kb=500文字換算のまま話を進めていきたいと思いますので何卒お付き合い下さい。
ラスト三作のkb数がどれも一桁台なので竜頭蛇尾感は正直ある


東方創想話 作品集234(2020 12/27-2021 03/02)


概略
・初投稿の方は12名、その方々の作品数の合計が21作品なのでかなり多い部類かと
・一人で20作品投稿されている方の存在も踏まえると今回はそういう作品集だったのかも?
・2000点超え作品はゼロでしたが3000点超えが1作品、おめでとうございます
・作品集の埋没は2ヶ月近く、2月は28日しか無いのでまあまあという感じ

 

ピックアップ作品紹介(作者名敬称略)

  • おてんとさまが見てる 作者:くろはすみ サイズ:11.8kb

余りにも孤独に慣れすぎた盲の手を引く暗闇の話。

この話はモブ主人公の持ち味が色濃いのでまずそこから触れるのですが、盲目でありつつも妙に宗教的と言うか弱味を見せずどうあろうとも生きていける術を知ってしまっていたそのどうしようもなさがキャラ造形として秀でていて。
最終的に"おてんとさま"そのものは自己完結の手段でしか無かったと知ってしまうのだけれど、それを知覚する時には自らの身の内や弱味をルーミアに完全に曝け出しており、自己完結から脱却出来ていたというストーリーを一層引き立てていたと思います。
この誰かに曝け出すという行為が即身仏のように自らを削り研ぎ澄ましていくのと同義であるからこそ、最初の出会いから彼女の地の文における世界が急速に拓けていく書き口が悲観的な面を感じさせずにいたのでしょうか。"おてんとさま"に文字通り照らされていない彼女が最終的に天道様とは追聯する闇に抱かれてフェードアウトしていくのも、聞き手がルーミアであった意味を確かに感じずには居られない巧手さを存在させていました。
モブ主観でありながらも幻想郷の世界観に則って、かつルーミアの扱いを舞台装置に留めずしっかりと描ききった異色の作品です。

 

  • 一番、隣に相応しい 作者:奈伎良柳 サイズ:50.2kb

磨弓の成長と、それでも越えられない壁が存在するのかという話。

この話で主軸にあったのは磨弓が『もしも、私より強い埴輪兵士が出来たら、私はどうなるのだろう』と悩む姿で、畜生界から人間界に降りた際に描かれる修練と成長の話とは究極的に対を成す物でした。
であるからして、自らよりも強い埴輪が一から創られる事は無いという前提が明かされてしまえば後は本人の成長次第という風に話が進み、加えてその進歩の具合を妖夢との戦績で示す事で端的に表現していたのは実に巧妙な物。
頬を撫でる、血や涙を流す、剣を振り抜くといった軽微な動作に登場人物の感情を込めつつ物語を動かしていく地の文の柔らかさとスピードの付け方もまた面白く読めたものです。
後は妖夢の話の絡ませ方も良かったなとも。鬼形獣で切り結んだ同士であり、技を互いに研鑽出来る武芸者であり、同じ悩みを共有できる立ち位置でもあるとして話を更に盛り立たせていたのでしょう。
主従関係という枠の中で丁寧にキャラを回して着地点を見出されたのだな、とも思わされる中編でした。

 

  • 忘却の技法 作者:そらみだれ サイズ:18.8kb

人生経験の差から来る妹紅の歴史観の話。

会話主体で構成された物語の中で確かに妹紅の人生経験や苦渋が裏に滲みつつも、それらの要素に話が引っ張られる事無く、寺子屋の少女が主人公というポイントを崩さずにすっきりと読める丁寧さが存在しているのがまず良いものです。
妹紅のその一挙一動を魅力的に描く事によって、読者にも作中の少女と同じように興味を惹かせて両者の心情を軽くリンクさせてくれるこの書き方があってこそ、柔らかさを以てこの話の着地点にも付いていける感触とでも言うのでしょうか。
読者は当然ながら妹紅のその推移を儚月抄等の原作で知っていますが、それを知る余地の無いモブ主人公ならではの触れ込み方を上手く書いているという点もやはり好きなものですね。
後、少女の前では詮索を誤魔化すのが下手だった妹紅がラストの慧音との会話シーンでは寧ろ相手を弄る側になっているのも、知り合ってからの歴史の長さの差みたいに思えて良い塩梅でした。
甘酸っぱくてニヤけてしまいたくなる、そんな恋路と羨望の入り乱れた作品です。

 

  • 正邪はお家に帰りたない 作者:石転 サイズ:26.9kb

正邪の畜生界出奔騒動の瑣末を垣間見る話。

鬼人正邪という天邪鬼のキャラクターを日記という媒体でギャグ色濃く真面目に描きつつ、それを覗き見る鬼畜生共のツッコミが適宜入るという作劇構成自体がまず面白いんですよ。
それでいて四者四様でキャラが十分に立っているが故に読み疲れせず次の頁へ次の場面へと読み進められ、終いには大団円で終わってくれるのですからそれはもう楽しかったと言い表す他無いのです。
個人的にこの話で特に上手いなと思ったのは鬼傑組という組織を描くにあたってお出しされたモブ幹部の扱いで、決して原作キャラの役割を食う事無くキャラが立っていない訳でも無く、絶妙に美味しい所を持って行く事によってラストで鍋を囲むその一文が『五人』であって良かったと思わせてくれる所ですね。暖かさによって世界観が維持され続ける点に読者が安心出来るのは大きい。
畜生界でも正邪は正邪だと頷かせてくれるような、そんな一作でした。
あと『テメェの都合が良すぎる妄想の人格で語るクソ』、アレは自分も嫌いなんでよく分かる。

  • 鬼のいぬ間に 作者:転箸 笑 サイズ:10.8kb

人の営みの中で素性を隠したい鬼の話。

最初は村から見た異邦人という形で話が進み、そして華扇視点に物語が移行した所で人外から見たヒト社会が描かれるこの対比も中々ですが、それ以上に昔の鬼としての性質が色濃く残る華扇がヒト社会の中に身を溶け込まそうとして尚も出来ないという部分を、悲壮感も一切抱かせずに鬼の剛直さと妖しさで地の文を彩る事で演出しているのがなんとも読み応えがあったもので。
『掃除もせず、服に少しだけ付いていた血をおとすと、家を出た。ザクロはもういらない。』の一文とか特にそうですね。改行を駆使して視点誘導をする事で人外の不気味さを一層深く湛えさせているのが短編らしくて良かったり。
だからこそ、人の間に混じれず柘榴に手を出し終いには本物の人に手を出してしまった華扇が、ラストにおいて柿の葉寿司という人の食べ物の為にその地にもう一度戻って来ていた様子に不思議な物を感じずにはいられないのかも。
昔話としては少し不思議で不気味で、だからこそ出ていた味が表現に出ていた、そんな短編です。

 

  • 祈りと奇跡とアングレカム 作者:夏後冬前 サイズ:36.2kb

秘封倶楽部が神と奇跡の実在性に触れる話。

こういう科学世紀ならではのアプローチから世界構造への深刻なダメージに至るストーリーの、その根幹が秘封倶楽部のフィールドワークではなく人の技術による物という導入が凄く好きです。
それでいて作品内での科学世紀の設定や物理学的なニュアンスを苦も無く読ませてくれる構造のお陰で、より一層起承転結の起と承の部分が読み取り易くかつ魅力を底上げしているのも楽しかったり。
そしてアングレカムを名乗る不審者との対峙然りそこからの怒涛の展開然り、汗が背筋をなぞりつつも切実なまでに神というシステムへ得体の知れぬ感情を抱かせてくる急転直下こそが真骨頂。
解明の出来やしない無い未知に対し慌て戸惑いつつも最終的に意を決し、毅然とした態度で応じられるようになるまでのメリーのプロセスの演出の仕方には、SFというジャンルを差し引いても流石としか言い表せませんでした。
あとこれは本筋とは直接関係しないのですが、蓮子とメリーの会話から圧縮された知識の数々がそこはかとなく顔を覗かせているのが知的なニュアンスを感じさせていて凄く読んでて面白かったですね。
読後に爽快感が味わえる作品という訳では無かったにせよ、それでも十二分に楽しめる中編でした。

 

  • 『水底のラフィア』より 作者:真坂野まさか サイズ:63.4kb

日記を手に入れたわかさぎ姫がそれを読もうと奮起し心を躍らせる物語。

最初に言ってしまえば、この作品はこの作品集の中ではかなりの一線を画す存在であるとも言えます。
その確かな技量に裏打ちされたであろう優しい地の文の書き方もそうなのですが、一番はやはり"読書"という読者にとって特に感情移入がし易いテーマを主軸に置いているという点に集約されるのでしょう。
東方創想話というサイトの特性上こういった作品を読む人の殆んどが読書好きであるという前提こそありますが、主人公に据えられたわかさぎ姫という読書初心者が紡ぐ心情描写の数々に対して、その読者視点を通す事によってストーリーをより深く味わえかつ懐古にも浸らせるというのは中々出来た事では無く、語彙を投げ打ってただただ素晴らしいと表現する事しか出来ない程の物です。
これこそが没入であり初心であり、であれば読者は自ずと中盤のパチュリーと同じような岐路にも立たされる。『何かを好きでなくなることは恐ろしい』なら自分は実際初心を忘れていないか、読書愛とは何か、等々。
だからこそその後に来る菫子との問答や『水底のラフィア』探しの終着点がより刺さるのは当然とも言えましたね。本当に優しい書き口で読者がふと抱いてしまった蟠りを氷解させてくれては、この物語を好きにならない訳にはいかないのですから。
実際語りたい事が多すぎてストーリー本編に触れた紹介を余り出来ていないのですが、良かった点を探せば枚挙に暇が無いというぐらいにオススメできる中編です。

 

  • 部屋に降る魚 作者:ふさびし サイズ:4.1kb

蓮子の見た一朝限りのワンルームの幻想風景。

この作品の上手い点として、部屋の中の水が魚になってしまうという異常現象を視覚的に表現し続ける事によって臨場感を生んでいる事が挙げられます。
秘封倶楽部を形作る代名詞とも言える瞳を主体に、短いながらも瞼に焼き付けてくるかのような鮮烈な出来事を鮮明に切り取って、幻想的もしくはSFチックな展開に収められている。
決して大きな展開があるとは言えないのですが、かと言ってストーリーラインの魅力が足りない訳でも無いというのが十全に伝わって来るようで、秘封倶楽部を短編の題材に扱う上での難儀な所が解消されていたのかもしれません。
一個の出来事を切り取った形の物語だからこそ演出できる、難しい事も考えずに読めるような気軽さが心地良い短編でした。

 

  • 氷室 作者:マジカル☆さくやちゃんスター(左) サイズ:6.2kb

氷を売る男と氷を作るチルノの二人三脚の話。

忘れられたモノが行き着く場所で尚廃れゆく物の存在や幻想郷での冷凍事情を引っ括めて、それでも氷売りという外ではとっくに寂れた職業が息衝いているのを確かに感じられるのが実に良いもの。
にとりの開発した電気氷室に主人公の家族構成が重なって氷売りという職業自体がもう長くは続かないと序盤は匂わされるのですが、相方として出てきたチルノの無邪気な快活さが氷売りの目線を介して語られる事によって、悪い終わり方にはならないだろうという予感に手応えを与えてくれるのもモブ主人公であるという点の為せる技でした。
郷愁や技術の進歩に置いてけぼりにされそうになっても、そこに居て生計を立てている幻想郷住民が居るのだと、世界観の下地を再確認させてくれる短編です。

 

  • 霊刀「超硬」 作者:灯眼 サイズ:4.3kb

蛙の親は蛙という話。

最後の『まったく、ふたりそろって剣馬鹿ね』というセリフに象徴されるように、妖夢と妖忌の似通った部分を行動のみで示唆するのが上手すぎるんですよ。
最初は真面目な地の文で霊刀の業物具合と妖夢の流され易さを直線的に描き、妖忌からの手紙の文体も流々とした生真面目さを描きと、ともかく文章に一切の曇り無く進行するのはやはりこの作者の方の持ち味なのでしょうかと勘繰らずにはいられません。
それでいて物語として見ればちゃんとした形に収まっているのですから、妖忌の堅物な間違いがより一層強調されてしまうのでしょう。だからこそこの作品が良いと言えるのですけれども。
バレンタインという時期ネタを巧みに昇華させた、面白おかしい短編でした。

 


紹介しきれなかった作品の中にも珠玉の物はまだございますので、まだまだ探してみては如何でしょう?
今回は特に得点数上位の作品からの抜けが多かったという事実も存在しているので…。

 

あと完全な私信とはなりますが、twitterでも申しております通り今月21日開催の春例大祭ではす03aのスペースにて出せたら薄めの漫画を出す予定です。
また、す10a『はろうぜっぷ』様の東方神霊廟ダークサイド合同にて軽い漫画と、つ14a『イデアタウン在住』様の再録集にてよくわかんないものを寄稿させて戴いておりますので、興味がございましたらそちらの方もどうぞ宜しくお願い致します。

ぶっちゃけ新刊を出せるかはもう本当に絶望的です

東方小説投稿サイト「東方創想話」 作品集233 概略

新年明けましておめでとうございます、今年も宜しくお願い致します。


時期が被ったので所謂記事初めというのを創想話関連の話題でやろうかと思いまして。
書初めに準えたと言ってもまぁこの分量を1日で書くのは到底不可能なのですがそれはそれ。
なんなら吉書初めは1月2日に行うのが通例です。こんな元旦なんかにお出しする物ではない。

 

さて毎度恒例の前置き。
この記事を読んでいる時点でご存知でない方は居ないという前提の上で書いておりますが、まぁ一応書いておくとこの世には東方創想話という東方小説の投稿サイトが存続しておりまして、今回はその233個目の作品集についての概略記事となります。
性懲りも無く備忘録用の概略と個人的に特に面白かった十作品のピックアップ紹介のお届けですね。
相も変わらず1kb=500文字換算です。今回の紹介作品には100kb超えも存在しますがどうかご承知を。

 

東方創想話 作品集233(2020 10/26-12/27)

 

概略
・初投稿の方は5名、ここから定着していくのかどうか期待
・作品集が埋まった時点での2000点超えは無し、少し残念
・作品集の埋没はここにきて2ヶ月に、寧ろこれが普通なのかもしれない
・1人で27作品投稿してる人、本当に人なのか?

 

ピックアップ作品紹介(作者名敬称略)

  • 公道を水のように、廉直を川のように 作者:ドクター・ヴィオラ サイズ:129.8kb

女苑の葛藤と欲望と悪徳に手が差し伸べられる話。


この作品は妖怪にとって特に難儀な種族としてのサガについて焦点を当てているのですが、命蓮寺の戒律の下でそれらを上手く抑えんとする妖怪達とそれでも抑えられない女苑の対比が本当に凄まじい。
一輪も星も村紗もサガを吐露して救おうとするのに、それでも尚女苑の中で燻る悪徳が止まらずに突入する中盤の山場は居た堪れず。
疫病神であるならば悪行すらも失敗してしまうのはそこまで来た読者の視点ではとうに分かりきっているのに、ただ眺めて読み進める事しか出来ないぐらいに没入感を湛えた地の文もまた魅力の一つです。
そして何よりも語らねばならないのは悪徳を遍く照らさんとばかりの聖の道徳っぷり。この敵わないと一瞬で分からされる感触こそがこの作品での最大の強さだと自分は思っているのですが、それも含めて終盤に掛ける猛烈なカタルシス及び紫苑の手の差し伸べ方も一層映えていて、ただただ読後感が半端では無いと思い知らされるんですよ。
長さに見合った感情移入の強烈さと畳み掛けて何度も押し寄せるような女苑の苦しみの描写がニクい、そんな長編です。

 

  • 複製丸 作者:くろはすみ サイズ:5.3kb

にとりと魔理沙の実験の話。


やけに倫理観の軽さを思わせてくるにとりとどこかお調子者で軽薄な魔理沙のコンビがまず良いですよね。にとまりは世界を救うってフォロワーも言ってました。
ちょっとした日常風景を挟んでからとは言え、新しい発明品が出来てさあ実験という流れは少しばかし往年の二次創作を思い起こさせるようで。
それでいてカップリングみは無くて、魔理沙の口から淡々と語られる状況やちょっと可愛らしさも感じる地の文に愛おしさ満載の動作を見せる猫のそれはただただ良いもの。所謂眼福という奴です。
短編でありながらも序破急が心地良く痛烈な一作です。
まぁそれで終わっていればここで紹介しないと言うか、オチの展開を知ってから読み返すと色んなどころか殆んどの描写がオチを匂わせて収斂させてくるんですよ。そんなん好きにならん訳が無いでしょうに!

  • 酒一杯 作者:封筒落とした サイズ:11.5kb

とある男による酒との付き合い方についての一人語り。


頽廃的な語り口から放たれる酒クズの権化みたいな回顧が本当に上手すぎて、本職かと疑いたくなるぐらいにズルズルと沼に引き込まれる言い回しが目を引くんですよ。
もう迎え酒のくだりとか凄いですよ、酒に飲まされてるのかと言わんがばかりでそれでいて当の語っている張本人は何の悪びれも無く酒を臓腑に流し込んでいるのが見え見えで読んでるこちらの気分も昂ぶってしまいますもの。
そして酒の力で万能感を得て愚行を犯して痛い目を見たという過去譚を終わらせてからのソレ。牛乳で一旦のオチが付いた時点で凄いのにその後すぐ羹に懲りて膾を吹けばまだ良い方だったと思い知らされるのは完璧としか。
あと初の美宵ちゃんタグで存在を匂わせてからの、ほぼ聞き役に徹させて物語が一人芝居かの如く進行していく様も流石ですよね。『あー悪いね美宵ちゃん、おっとっと、へへへ……』じゃあないんですよ。だいすき。
酒は呑んでも呑まれるな、それを主人公を反面教師にするかの如く描いた作品でした。

 

わかかげばんきのちょっと可笑しな日常風景。


文字の書かれたそれを掲げてわかさぎ姫と影狼の前に姿を表す蛮奇って構図だけでも面白いのに、わかさぎ姫側の思考の畳み掛けも影狼側の思考の纏まらなさもそれぞれ如何にもなユーモアセンスで彩られていてとても良い。
声を届けるのが電話の意義なのに聞こえるのは相手の声ではなく蛮奇の声という事実も、オチとして完成された構図でありながらもそこから更に可愛らしいわかかげばんきのそれぞれが描かれていればもう笑顔しか浮かびません。
だからこそ終始一貫して読んでいる側がどぎまぎニヤニヤさせられる。もどかしくって愛しくって蛮奇のその思考回路の一端を理解してしまえるぐらいにわかさぎ姫と影狼に早く会って自分の声で話せと言いたくなるものです。
友情関係という一つのテーマを馴れ初め云々から紡ぎ上げて、かつ全員の魅力を損なう事無く三者三様の妖怪模様を見せ付けてくるのが弱っちくとも健気に生きていこうとする彼女たちの姿を克明に映し出していると言っても差し支え無いのでしょう。
ボケとツッコミと緩衝材が二転三転しては笑わせてくれる、そんな中編です。

 

  • 夕景に酔わされて 作者:めそふ サイズ:5.6kb

吸血鬼の見る夕暮れの話。


一貫して瞳を通した光景とその色彩を中心に、入念に言葉選びをしたであろう地の文の紡ぎ方が恐ろしく、強烈なまでの雰囲気を漂わせてくるのが特筆点と言っても過言では無いでしょう。
窓越しに見えるその薄暮れ模様、窓面から漏れ出て射し込む天敵たる陽光、外とは窓と壁で隔てられた館の内部。その三点の扱い方も丁寧で、独特の柔らかささえ生み出しているのではないかとも思わされます。
そもそもにして夕方は吸血鬼にとっては寝起きの時間帯で、今から夜が始まるという絶好のタイミングで、だからこそその期待と儚さが丁寧に織り交ぜられてるのもとても良い読み心地。
会話のどこか含みがあるのも相俟って、姉妹含めた紅色がとても鮮やかに魅せられた短編でした。
だからこそ放たれるそのオチがもう破壊力満載と言うか、でも実質朝の着替えだから寝惚けた状態でやればそうなるかもと納得出来てしまうと言うか…

  • 薄氷に頬染め、雪渓に血抜き 作者:岩檜葉 サイズ:25.1kb

山姥の歩く妖怪の山の雪景色の厳しさを描いた話。


冬場の山というモノクロにしかなり得ない環境でありながらも、そこで確かに存在している多種多様な自然が僅かな色彩を齎してくれる様が綺麗に描かれて、筆舌し難い美しさを生み出しているのが実に良い。
水の描写が特に綺麗なんですよ。寒さを湛えたまま勢いよく放たれ轟くその瀑布の数々が視覚面でも聴覚の面でもネムノの感覚及び地の文にありありと映し出されているというこの大自然そのもの。
あと途中で差される万葉集の詩の一節もかなり好きですね。決して返ってくる事の無い山姥の愛、引き換えに熱を奪う雪女の愛、その二つがドロドロに混ざってどちらも責める事など出来やしないと分かってしまえるこの感覚。序盤で示されたネムノとレティの間にあったぎこちなさに対して一つの解答を示されるというのは、成程やり切れない何かしか残らない。
季節以上に色々な感情を行間から匂わせてなお強さが前面にある一作です。

 

  • 風よ、風よ 作者:モブ サイズ:6.2kb

何かを告げてくれる風と早苗の思い出の話。


風を主軸に、その音の強さと吹いている時間の流れを通して早苗さんの回顧を引き出していく構成の展開が非常に詩的で、これは四篇連立しているからこその強さとでも言いましょうか。
朝昼夕夜のそれぞれで今過去未来全てに思いを馳せるワンセットの流れが強烈で、人として神としての二面性があって、外の世界の思い出の上で幻想郷での今が成り立っていて、風との並ならぬ関係性もあって、そんな早苗さんだからこその文脈が良いの何の。
行間を読ませるかのように淡々と綴られる光景に時折比喩的な表現が顔を覗かせて、風という存在について一際少女み溢れる書き方がされているのも健気で美しい。
早苗さんが幻想郷に馴染んで、確かに生活を送っている姿がありありと浮かぶような短編でした。

 

  • 二十七日目のお昼過ぎ 作者:奈伎良柳 サイズ:10.2kb

小鈴が阿求に会おうとする話。


鈴奈庵で見せる怪異に対するその危うさを抜きにして、ただただ小鈴ちゃんが阿求との関係性について悩んで考えて一歩先に進もうとする様を描いた作品という点がまず強烈です。
決して子供ではないけれど主人公勢と比べれば幼さが残る小鈴ちゃんに、年齢とは裏腹に里の重役として気高に振舞う阿求の差は大きいようで、それでもなお友達として居続けているという状況。
それが一ヶ月近く会わない日が続いたら、その事実を考えざるを得ないという時に小鈴ちゃんが見せる言動が絶妙で、感情を説明し過ぎず、かと言って情報量を極端に削った訳でも無く、読み手側に適切に理解させてくるこの地の文の取り方は天才的でしょう。
そして疑念が解決するって時に阿求の中の年相応の少女性がはたと見える構図も効果覿面、またいつもの二人の光景が幕を開けるのだと思わされてしまう所も良いとしか称せません。
読めばタイトルのその意味が理解出来てしまって思わず唸ってしまう、二人の間柄の取り方が完璧なそんな一作です。

 

  • 恋する乙女に祝福を! 作者:海景優樹 サイズ:26.7kb

霊夢魔理沙とこいしちゃんの三角関係が織り成す年末の光景。


ともかく幻想少女のその少女的な可愛らしさが全面に押し出された展開が微笑ましいのです。前半の霊夢パートも後半のこいしちゃんパートもそれぞれ艱苦する姿と羽目を外す姿があって可愛いのなんの。
霊夢とて長年の親友として魔理沙の相棒枠は譲りたくないし、こいしちゃんとて瞳を緩ませてくれる過程に居てくれた魔理沙の事を大切にしたい、だからこそ魔理沙を巡って意固地になってしまう二人が居て。
それに比べて魔理沙と来たらやや傍若無人で、それでいてやっぱり一番の相棒は外せないけど僅差の二番枠ならいつでもウェルカムみたいな天然ジゴロで、恋の魔法と埋火でつい読んでる最中に笑顔にさせられるのも良いですね。
あと殆んどが会話劇で進行しているにも関わらず、口調から誰がどんな表情をしているのかすぐ分かってしまえるその端的さも上記のそれらを一層増幅させていたのかもとも思わされます。
こいしちゃんの開眼に至るまでの文脈がもうちょっと欲しかった気もすれど、それでも幻想少女の賑やかさがふんだんに盛り込まれた一作でした。

 

  • キョンシー・オブ・ザ・デッド 作者:こだい サイズ:27.1kb

アホみたいな小傘ちゃんが阿保な話。


これですね、この話を語る上で小傘ちゃんが阿保である以上の話が出来ないぐらいにもうズルくて面白いんですよ。時折ボケる地の文ですら霞む程の愚行の連発が最高です。
初手で早苗さんに対して穿突してキレられた時に何もそこまで言わなくて良いじゃないかと微塵にも思ってしまった事は当然反省しなければならないのですが、にしても阿保。
世の中の小傘ちゃん好きに対してここまで言ってしまった事を謝罪しないといけないかもしれないけれども、それでも尚も持ち得る最大の表現で冷罵して卑下して讒謗しても到底形容し切れないぐらいには阿保ですよこれ。大好き。
ついでにタイトルにもなってる殭屍のギャグ的な扱い方も神掛かっていると言うか、低予算B級ホラー映画じゃまずお目に出来なさそうな二点三転する構成を用いた上で、かつ地の文の狂言回し込みで思いっきりブン殴ってくる。
実話タグの意味は分かんないけれども、それでもどう足掻いても笑わずにはいられない、そんなシュールギャグの境地に至ってしまった作品です。

 


他にも爆速ギャグで面白い作品ですとエロ本、フェムト、RIKISIも挙げられますが、ちょっと今回は省いた形で…。
紹介しきれなかった珠玉がまだまだ存在しておりますので、この機会に一個人の感想に囚われずに色々な作品を探してみるのも是非。
玉石混淆とはよく言ったもの


あとなんか自分も投稿していたらしいのでお時間があれば読んで戴ければ何より。
ついでに昨年の紅楼夢/秋例大祭の新刊をBoothで販売し出しましたので、そちらももし興味がございましたら宜しくお願い致します。

 

東方小説投稿サイト「東方創想話」 作品集232 概略

自分自身の二番煎じをしてみる事にしました。
最近演舞やってねえんだわ…すまねえ…。

 

さて。
まぁ皆様ご存知かと思われますが、東方創想話という東方小説の投稿サイトがありまして、今回はその232個目の作品集についての概略記事となります。
今回も備忘録用の概略と個人的に特に面白かった十作品のピックアップ紹介のお届けですね。
相も変わらず1kb=500文字換算です。今回の紹介作品は全体的に長め。御参考までに。

 

東方創想話 作品集232(2020 9/17-10/25)

 

概略

・初投稿の方は6名、そういう方が複数作投下されてると嬉しい
・作品集が埋まった時点での2000点超えは3作品、前回が異常過ぎたか
・作品集の埋没は三作品集連続で1ヶ月少々、但しちょっとずつ遅くなってる?

 

ピックアップ作品紹介(作者名敬称略)

  • 究極友達妖怪さとり 作者:nim サイズ:49.6kb

さとりとフランが楽しく遊戯に勤しむお話。

 

いやズルいでしょこれ。原作で接点ゼロのキャラをここまでちゃんと導入から勢い衰えず理路整然と幻覚に仕立て上げてるの好きすぎます。
それにフランちゃんの一人称で語られる地の文のユーモアの洪水がモーゼなど必要ないと言わんばかりに正気と狂気で板挟みされて最後までチョコたっぷり。負けじと食い下がるさとりもそれはとてもさとり妖怪で、結果として謎めいていて和やかで名状し難い亜空間が形成されるのですが、最後にはちゃんと可愛い姉妹愛で一件落着する見事な落とし処の腕前で御見逸れしましたと言わず他ありません。
パチュ髭危機一髪、パチュ棋、パヂュェンガといった幻覚の数々も目を引きますし、台詞が少ないながらもパチュリーの扱いが瞬時に分かるこの所業。
逆にここからどうやってあんな綺麗なオチまで持ってかれたのかと読み返しても分からない、そんなとても楽しく軽快な中編です。

 

  • 衣着ぬ 作者:灯眼 サイズ:13.1kb

八雲三代の遺伝の話。

 

衣着ぬというタイトルそのまま、強大な妖怪とその服の必要性について語られている訳ですが、この話のメインはなんと言ってもその書き口。
服を着ないという選択肢が大妖怪にとってさも当然であるかの様に、その婀娜で官能的な肢体の色気毒気で相手を魅了しようとする藍や紫の言い振りはこちらが間違っているのかとさえ思わせてくる程。
だからこそ今服を着ている理由の描写が現実味を帯びてきて納得させられるのですが、いやそうはならんやろ。眩しい理由の方は訊いてないんですけど?
それで今の彼女達は昔の己を恥じて服を身に着ける様になったけれども、では橙はどうかという後半で問い掛けてくる構成もただただ狡猾です。
予測出来たとしても笑わずにはいられないのがこの作品の魅力と言わざるを得ない、シュールギャグの極地を垣間見たかの様な短編でした。

 

  • 誰かが夢見た機械人形 作者:モブ サイズ:40.6kb

早苗とにとりの過ごしたひと夏の不思議な冒険譚。

 

夏真っ盛りの幻想郷の風景と、そこに似付かわしく無い外の世界のロボットの動きが絵本の様な口調で展開されていくこの地の文。
早苗やにとりの面白可笑しい行動や会話を主体に進行する物語ではあるのですが、やはりそこに流れ着いた幻想郷としては若干異質であるロボットの挙動もこの物語の真髄です。
初期はまるでギャグかと言わんがばかりの機能しか付いていなかったのに、幻想やヒトの温かさに触れて遂には八面六臂の活躍を見せるこの成長たるや。
キャラどころか物語全体も温かくて、だからこそこの物語はラストの展開まで駆け抜けていける素晴らしさがあったのだろうとも思えます。
タイトルの『誰かが夢見た機械人形』、その"誰か"が登場人物の全員に当て嵌ってしまえる様なこの構成も見事と言わざるを得ません。
夏と少女とロボットというアニメ映画一本で描けそうなテーマ性から、それに負けじと放たれたスペクタルが鮮明に表現されている中編です。

 

  • ゲテモノに紅茶を添えて 作者:石転 サイズ:19.4kb

仙人崩れのヒトデナシ共の日常風景のワンシーン。

 

華扇、芳香、屠自古の三者三様な人でない存在が織り成すお茶会の会話劇と言われたらそりゃ発狂します。オタクってのはそういうものですので…。
それはそうとやはり、種族の真面目な話や価値観の話を織り交ぜながらも楽しげに会話の弾んでいそうな調子が文字だけからでも伝わってくる、そんな跳ねるような和気藹々さが楽しいんですよ。
現状を曲がりなりにも満足していて、過去を悔やむ事無く次へ生きていこうとするその姿は活き活きとしています。死んでるけど、そういう種族ジョークも気兼ね無く飛び出せる関係性。
山盛りのクッキーを渡されて絶交だと口にしながらも、ちゃんと次回会う約束を取り付ける華扇の姿とか見ててほんわかします。
真面目話と痴話で緩急付けながらもスッキリとした感じの一作でした。

 

  • 友愛は薔薇の香りと共に 作者:海景優樹 サイズ:28.9kb

小鈴ちゃんと古明地姉妹の友愛の距離感の話。

 

鈴奈庵から一貫して危うさが描写され続けている小鈴ちゃんですが、その危うさがいつまでも健在であり続けそうだと感じさせられるそんな言動がとても良かったです。
古明地さとりという縁起にも危険性を盛り盛りで書かれたさとり妖怪に対して毅然と対応する様は育ちの良さを感じますが、どちらかと言えばいつまでも夢見る少女で居続けそうなそんな雰囲気。
にしても自分が嫌われる存在だと分かって敢えて恐怖を煽ったりさとり妖怪然とした行動を見せ付けるさとりの姿もまた、妹想いのみならず小鈴への気配りを感じさせる言動が多めで可愛いですね?
そして阿求。息をするようにあきゅすず。こいしの目の前でも小鈴と二人っきりでもいじらしい阿礼乙女要素盛りだくさんでタイトルにもある友愛の要素がニクいものです。
さとりから見た小鈴の心情変化の描写もまた面白くて、コロコロ変わる主点も楽しめる作品です。

 

  • さぁ、遠い所まで 作者:転箸 笑 サイズ:8.2kb

菫子が幻想郷を探そうとする話。

 

幻想郷に行けなくなった菫子というイフの話でありながら、この作品の菫子に悲壮感は無く寧ろ再起出来そうな強さがあるのがまず特徴的なポイントですよ。
そしてそこそこの田舎で幻想郷以外にも怪異が転がっているという事実に触れる。この菫子の視点を通した田舎への漫然と、でもくっきりとした描写に爽やかさすら覚えてしまいそうです。
なんと言うか短いながらもテンポの良い話の進み具合が次々と移ろい行く取り留めの無い場面の連続を際立てている感じがして、オチも思わず失笑してしまう程。
この作品の菫子ならきっと上手くやって行けるのだろうな、とそう思わせてくれる短編でした。

 

  • 一人で走れる 作者:いびでろ サイズ:25.2kb

魔理沙が自転車に乗ろうとする奮起の物語。

 

にとりの開発した自転車に悪戦苦闘する魔理沙の汗臭い努力が、箒に乗れる様になるまでと重なって描写されていくこの構成がまず惹かれます。
見返してやる、必ず乗れるようになってやるという決意さえ滲み出てくる地の文の感情の乗りようこの上無く。挫折や再起も含めて、これは紛れもなく王道の成長譚だと言えるでしょう。
そしてこの話のにとりの性格たるや、守銭奴でガメつくて、それでも最後まで読んでいると何故か憎めないと思わされてしまうのがまた良いものです。
『世界のことをまた一つ好きになれた喜びに比べたら、転んだ程度の痛みなんて!』という魔理沙の勝ち誇った気持ち等、ストーリーが後半に掛けて一気に結実していくのが本当に面白い。
本当に自転車に乗ったとでも言いたげに、駆ける様な爽快感で後が満たされる、そんな一作です。

 

  • 小傘がぬえに矢尻を作ってあげる話 作者:くろはすみ サイズ:25.7kb

タイトルそのまんまの話。

 

とにかく小傘とぬえの互いへの感情が良くて、本人達の思っている以上に深い友人関係になっていそうなのが地の文の裏から犇々と感じられる書き方が良い作品です。
ぬえは口に出さずとも小傘への信頼感情が高いし、小傘に至ってはぬえの事を掛け替えの無い友人だと思っているし何よりその自負が強すぎる。三重の意味で蹈鞴を踏んでますよこれ。
それに何と言っても小傘の性格が良い。人里の中の話だから当然モブ市民の方々も出てくるのですが、彼らから小傘への人柄の良さもさながら小傘側も彼らに対して礼儀正しく愛着があって。
『あの子と仲良くするには些か人間過ぎたのかもしれない』とぬえに対して小傘が顧みるシーンはまさにそうなのです。人間妖怪どっちつかず、それこそ付喪神然とした感じが文脈に大量に潜んでいる。
矢尻を作るという鍛冶業を通して妖怪と妖怪と人の距離感が匠に表現されている中編です。

 

  • さよなら幻想少女たち 作者:モブ サイズ:19.3kb

幻想郷に行けなくなって梲の上がらない生活を送り続ける菫子の話。

 

今作品集の中で菫子の面白い話を挙げろと言われれば、前述で紹介した『さぁ、遠い所まで』と比肩して、されど方向性はある意味真逆な感じの作品です。
幻想郷に行けなくなってから数年経って社会人となった菫子が、夢を捨てきれずにずっと燻って燻って現の世界にも地に足付けられずに転げ落ちていく前半の流れ。その悲痛の描き方がリアルで繊細で、ただただ恐ろしい。それでも、その望んではいなかった事実に打ちのめされながらも現実で生きていこうと転機を経て。『幸せの後ろ姿は暗い』と言っていた過去を通り越して、一先ずのケリは付けられたのだと分かる後半の光明は愛おしいものでした。
実際この作品への感想として当時感想欄に投げ込んだ物以上の物は書けません。自分はこの作品に対し、凋叶棕の東方Vocalアレンジ曲である『ハロー、マイフレンド。』と『くすぶるなにか』を思い浮かべて感傷に浸り続ける事しか出来ないのです。
でも本当に、空は虚ろで過去の居場所で幻想に近い場所で、その空間を共有出来ていた友人の居なくなった今ではその広大さもただただ無情。ただ確かにその心の空白は他で埋める事が出来たのだと読後に確実にそう思える、これはそんな物語でした。
因みにこの作品の作者さん、前述の『誰かが夢見た機械人形』と同じ方です。1ヶ月の間にこれ程までに面白い作品を二作品連続で投稿する手腕にただただ脱帽。

 

  • 脱:カフェから始まる秘封倶楽部 作者:Actadust サイズ:15.2kb

秘封倶楽部の二人が活動を見つめ直す話。

 

定石を踏んだかの様に喫茶店から始まって、そこから蓮メリでギャグで飯テロで蓮メリちゅっちゅが矢継ぎ早に繰り出される構成にはただただ疾走感満載としか言えません。
特に好きなのはラーメン屋でのシーン。秘封倶楽部という二人で一つの物語でありながら、主役をラーメンに持って行かれたとしか表現のしようの無い完璧な飯テロはブッ飛んでてとても良い。
ラーメンを啜る時は他の事なんか考えちゃいられないと目の前のそれに集中し始める蓮子は蓮メリちゅっちゅと言うよりラーメンちゅっちゅですからね。だからこそメリーの論調も面白く響いてしまう不思議な魅力すらありましょう。
最後に紫が出てくるという点に毎回個人的に腹を据えかねておきながら、それでも面白かったと唸らざるを得ない、そんな一作です。

 


他にも紹介しきれなかった珠玉の作品もまだまだありますので是非。
ぶっちゃけ二回目にしてマジで同一作者の作品を複数紹介しない縛りを破る事になるとは思ってませんでした。本当に悩みに悩んだ……。

 

あと、こちらは完全な私信となりますが先日の紅楼夢及び秋季例大祭はありがとうございました。
予想以上の方々に新刊をお手に取って戴いて感謝感激の無慈悲で過激な舞です。
差し入れ下さった方にも改めましてこの場で感謝を。
次回は春季例大祭にて霊廟組の短編漫画を書く予定ですので、また宜しければ。

新刊購入した人間判明次第全員鍵リストにブチ込んでるからな後16人覚悟しろよ