洪水「ディリューヴィアルメア」

もうどうにでもなぁれ

東方小説投稿サイト「東方創想話」 作品集235 感想前編

東方虹龍洞~Unconnected Marketeers、気付けば体験版どころかSteam製品版、はたまたパッケージ製品版までもが出てしまいましたね。
時間の推移も熱量も甚だしく、ExやLunaticでの縛りプレイを和気藹々とやっている内に早数ヶ月…と思いきやまだ1ヶ月。twitterでもなんかよくわかんない考察モドキや魅須丸さんを軽く書いた絵が異様に伸びたりして新作ブーストを思い知らされたのも遠い昔のように感じます。
その他にも静岡で春季例大祭が開催されるわTouhou World Cup2021が開催されその日程を全て終えるわモンハン新作は出るわモンハンは2回もアプデされるわ、個人的には色々な出来事が目白押しでした。

 

…何が言いたいかって?
東方創想話に全然入り浸れなかったんですよ。

 

大きい理由として4月入ってから格段と忙しくなった事も挙げられますが、まあなんやかんやでそんなこんななので今回は概略が書けません。
何せタイトルも『作品集235 感想前編』ですからね。という訳で今回は肩の力を抜きつつ、備忘録の側面を一層強くして進めたいと思います。
いつもの堅苦しい前置きも概略も無し、何故か作品集235を前半後半50作ずつに分けて十作品ピックアップ紹介みたいな流れになりますが、細かい事は気にしないで貰いたいです。
結局四日坊主でしたね


ピックアップ作品紹介(作者名敬称略)

  • かげのおおかみ 作者:蕗 サイズ:26.2kb

毎度幻想郷という空間に対し、如何に自機や面ボス達が和気藹々としようとも妖怪と人間の間にはどうしようもない殺伐さで隔絶が存在しているという前提で物語を見る事が多い気がします。
そもそもこの作品はそういう先入観を持って読んだからこそ自分にバチクソ刺さったと言っても過言では無いのですが、でも実際にはと設定開示された後の流れも実に上手い。
妖怪と人間の境界線は確かに存在しているのだけれども、道理の通し方の中に優しさが存在しているのが語り部の視点からも言葉選びにも表れている。著者の芯の通った愛が表出してるんですよ。
なんと言うか、モンスターズ・インクみたいですよね。主人公コンビが頭と毛ってのもそうだし(?)、少女の中にある忘れられない思い出に最後に手が届く所もそう。
あとこの作品の文章の妙として、オチを知ってから読み返すと文中に全て書いてあって。推理小説物を読む時はそういう頭の働かせ方がなんとなくで出来ているので一周目でも気付く事が多いのですが、今回はそういう雰囲気を一切感じさせずに驚くような開示をしてきたので、完全にしてやられたという気分になりました。前述の通り先入観が完全にキモ。

 

  • いつかさよならを言うまでは 作者:海景優樹 サイズ:37.6kb

メディスンと永琳の間にある種族的な不可思議な軋轢を永遠亭周囲の反応も通しつつ、お互いの立場を交互に映し出す展開方式がカップリング物として絶妙に成立させていたのが印象的でした。
永琳の人間的な立ち振る舞いと蓬莱人的な自意識が入れ混ざっている上で、メディスンからの認識が特別視しながらも人間の範疇である点は実に書き口が丁寧だと感じたものです。
氏が好きだと公言して憚らない永メディが遂に形になりまして、最初はカップリング要素の抽出だけで物語が終わったらどうしようかと思っていたのですがそうでもなく。
キャラの感情と風景のリンクも簡潔かつ丁寧で、字の文から情景がスッと伝わってくるような綺麗さも湛えて起承転結が分かりやすく表現されていたように思えます。
基本、人によりけり許容砂糖濃度は様々だというのは周知の事実かと思われますが、自分の中では甘すぎずの位置であったのが本当に僥倖でした。
因みにですが、タイトルの『いつかさよならを言うまでは』から最後の一文が『いつまでも』というニュアンスで締められるの凄い好き。

 

  • 湖に抱きしめられた 作者:ドクター・ヴィオラ サイズ:38.6kb

この作品に関しては感想が長くなってしまった為、例外的に感想欄に感想を投げ入れてしまいました。そういう事するなら最初っから全部感想欄にブチ込めやになってしまう。よくない。
向こうでは体を立てて書いたのでこっちは崩して書きたい事だけを記述するものとします。と言ってもこの作品はなんかもう本当に凄いですからね…。
氏は前作品集収録の『「水底のラフィア」より』をアプローチにこの物語を書いたと言っていて、主要な登場人物がわかさぎ姫とパチュリーという点は言わずもがな、本と彼女達の関係性を説き、未開の本を翻訳する術を身に付ける姿を描いていた『湖に抱きしめられて』という作品は実際そのエッセンスが多分に含まれていましたね。
ただあちらの作品が読者も傷つけないような物語として進行していたのとは対照的に、この物語はどこまでも不器用なパチュリーが自らを奮い立てて読者を引き摺り込もうとしていたのが印象的でした。
本当に言葉遊びが素晴らしい。まるで戯曲を紡ぐかの如く描かれる氏の作劇に目を奪われてしまうのですからつくづく才能と称したくもなりますよ。それも氏に対してムカつきを抱くレベルの。
何度読み直しても終盤のパチュリーが如く『ピャーー!』ってなっちゃいますからね。
ズルい作品ですよ。本当に。

 

  • 首を長くしてその日を待つ 作者;阿上坂奈 サイズ:11.8kb

三つの掌編で蛮奇のキャラを立てながら、相手に人間と妖怪の距離感を顕著に表せる三者を取って蛮奇の背景を軽くなぞり、そして最後に天邪鬼を出して蛮奇の内面を描写する展開。
若干ほんわかギャグのようで居て、それでいてどことなくそうではない物を纏った独特の雰囲気は上記で紹介した『かげのおおかみ』と似て非なるよう。
短編かくあるべしと主張せんとばかりの王道の起承転結の中で、跳ねるように登場人物達が感情を動かし言葉を紡ぐ様が本当に読んでいて気持ち良いものでした。
この作品は氏の作品の中でも特に会話文主体で、台詞と台詞の間に地の文を軽く挟みながら物語を進行させているのですが、その地の文が端的に書かれ行動と感情がほぼ直結している事によって文章全体のテンポを全く損なわず、ポンポンと会話のドッジボールを楽しめた気がします。

 

  • 怪鳥 作者:封筒おとした サイズ:14.9kb

『尾羽の燃えた軍艦鳥は持ち主の手を離れ、物語の上に羽を下ろし、やがて一つの巨大な、どす黒い巣を造った。』この一文を書いてしまえたその事実一つだけで百点満点。
既に軍艦鳥に営巣された魔理沙の傍若無人な描写もさる事ながら、この作品はやはりパチュリーを表現する為に幾重にも積み上げられたどこか病的な地の文がキマっているのなんの。
現実と幻覚の境界線が非常に曖昧な味付け、読書への病的じみた執着に手段と目的の逆転。パチュリーの懸念をサイケデリックに表現してしまったのはやはり氏の味であるとしか。
本当にこういう錯綜させられ朦朧とまで至らされるような、この風邪薬半瓶まるまる飲んだ時のようなあの感覚を文章にさせる事において氏の右に出る人は居ませんね。
しかし、冒頭においてはパチュリーと軍艦鳥が対極の存在にあるかのように小悪魔は言っていましたが、自分は究極的には同じ穴の狢であるように思えます。生活する為の最低限の活動にですらソレに侵食されてしまってしまえば、最早ウロの空いた木々と同義でしょうから。

 

  • 夢歩く妖狐 作者:灯眼 サイズ:139.7kb

この作品に関しても感想が長すぎて例外的に感想欄に感想を投げ入れてしまった。正直すまないと思っている。取り敢えず体裁整えて書きたい事は全部あっちに書いたからこっちは手短に。
まあ以前から述べている事なんですが、自分はドレミー・スイートというキャラクターをデウス・エクス・マキナ的に運用する創作が苦手でして。この作品は本当にそんな事は無く安心しましたが、ともかく人情味が強い。藍を主点に据えて苦労人属性が増しているのか、読者にとって気持ち良く喋ってくれる。『あーあ言っちゃった』とかとてもすき。
そもそもにして全体的に暖かい作品ですよね。仮面舞踏会も襖も、表面を破らない人の良心を前提に据えている訳で。それと一緒なんですよ。
あと氏の作品って個人的には秘封か永か妖のキャラ中心の印象が強いのですが、その中でも妖々夢組主体の作品の集大成のような感覚さえ覚えたもの。
もしかして『衣着ぬ』の長編バージョンだったりします?それはそれで不思議と面白いけど…。

 

  • 着衣遊泳 作者:カニパンを飾る サイズ:20.3kb

この作品では一貫してお燐が自由気儘に描かれてたなあ、とかやや散文的でそれがより一層お燐の猫らしさを深めていたなあ、とか。なんか肩の力を抜いて読める作品。
さとりにとって地霊殿が居城であるように、お燐にとっての温水プールは小さなお城だったという話なのだけれども、それを監視塔というありふれた物体によってより強く意識させられましたね。
形式的な作法、ずっとあり続けるであろうと思っていた物の崩壊、思い出の形。それがさとりとこいしの対比で、お燐だけが見ていたどこか幸せな風景だと感じられて。
だから赤い笛はお燐の物で、確かに温水プールが存在していたという証で、地に足付かない主との何よりの繋がりであり続ける事が出来るのだろうなという希望が抱けるのでしょう。
自分はこの作品を読む内に特徴的な地の文に引っ張られつつもどこか温かくほんわかとした言語に出来ない何かを何度も抱いたものです。でもきっと言語になんて出来ないんですよ。ぽんっ、って弾けて終わるだけの衝動的な感情の発露。それが何より愛おしい。

 

  • 菫子だらけ 作者:くろはすみ サイズ:16.0kb

読み終わった時の第一感想が『氏が新香霖堂読んだ記念に誰かをボコしたくなったのかな』だった節はちょっと申し訳無さが募ります。ごめん嘘。
こういう平行世界ネタで菫子を扱う作品はやけに新鮮に思えるのは気のせいなのでしょうか、菫子のやや浅慮でやや聡明な部分が露悪的に魅力的に描かれていた気がします。
後は何気にヘカーティアの描き方も好きでした。力を持つ者の足るを知っている感じや別格さがこうも短い会話や地の文だけで伝わってくるとは侮り難し、完全に物語の上ではサブのはずなのにそっちの魅力ばかりを感じてしまうとはさもありなんか。
それはそうとして、夢のシーンで二次創作やら解釈やらに対する氏のそれがちょっと含まれてそうでクスってなってしまいましたね。そういう邪推はよくない。
まあお菓子の存在しない世界なんてものは勘弁して欲しいものですが…。可笑しな話です。

 

  • とても穢れたもの 作者:転箸笑 サイズ:3.4kb

本当に構成が上手い。悪意も全く存在しない癖にここまで不条理に全てが空回りする様を見せ付けてくる様が恐ろしく上手い。
芳香が焼豚に垂涎し乞食への対応に悩む部分を強烈に描き、そしていざ渡してからは会話文主体。文章量だけで見れば竜頭蛇尾とも称せるのに、逆にそうだからこそ味が出ている。
読者への読ませ方を計算しているのかとさえ思わされる程に綺麗な物語だし、その癖してあとがきから隠しきれない悪辣な巡り合わせを感じざるを得ないのは、手放しで絶賛する程のムカつきですよ。
まあそれはそうとしてこの青娥の最後の振る舞いがどストライクでした。
霍青娥ってこういう女ですよね。大好き。

 

  • 青空の下で手をふって 作者:モブ サイズ:9.0kb

恐らくこの作品を一言で表せば、卒業式という節目から描いた成長の道筋なのでしょう。そりゃそうだ、少女の生き霊が生まれた理由は間違い無くそれなのだから。
でも菫子は少女のようにはならず、連続体のまま卒業を受け容れて幻想郷に居続けられている。それどころか卒業式を経らずとも深秘録を経て成長をしてしまえている。そしてやる事無しに寝ようとする訳でも無く、ちゃんと外の世界に地に足を付けてどちらも自分だと言い張っているかのように振る舞える。
別に卒業式が特段変容を齎すイベントでないように描かれながらも、そういった部分によって成長した姿を見せられる地の文の妙が良いものでした。
後、快晴の下で手を振るラストも少女とは思いっきり対比的でそこもまた素晴らしいですよね。自分から歩み寄れる菫子のその姿。誰かに歩み寄って貰わずとも自分の存在を誇示出来るのです。
まあしかし菫子は深秘録から概算すればとっくに高校を卒業している年代でしょうけれども、彼女の道はどこに伸びてるんでしょうか。不思議でなりません。
自分は中学は中高一貫で特に無し、高校も全校集会並の適当さで30分程度で終わり、大学の卒業式に至っては時勢で流れた人間なので、真面目に小学校の卒業式ぐらいしか節目気分が無かったかも…。


取り敢えず後編は1ヶ月後ぐらいには投げたいですね…。
まだ後半50作全く読めてないのでいつになるやら